研究課題
本研究はこれまで焦点が当たらなかった未成年の骨資料を多面的に分析し,未成年の生活復元が目的である。未成年骨は歯や骨形成が不十分なため研究の基礎である年齢推定が困難であり,骨格が脆弱なため遺跡からの出土は希少であった。大阪府堺市堺環濠都市遺跡内の喜運寺墓地内で子墓と呼ばれる墓域から胎児を含む乳幼児骨が約150体出土した。喜運寺は江戸時代の裕福な商家の菩提寺であり,被埋葬者は副葬品とともに棺に入れられ埋葬されていた。また,被葬者は胎児や乳児が多く,歯の萠出段階による年齢の推定法が使用できる個体は少なかった。今回,歯以外で遺存率が高く成長が反映されやすい部位を抽出し,推定法を確立した。さらに,本推定法の整合性を検討するために他大学の既知年齢のものと比較し,良好な結果が得られた。本推定法で推定した喜運寺の未成年骨の死亡年齢は周産期(妊娠24週~生後7日)のものが最も多く,5~6歳以上の幼児はほとんど見られなかった。喜運寺の乳歯の齲蝕を観察した結果,3~5歳(乳歯が完全に萌出しているが永久歯が未萌出の年齢)の罹患率が12.8%と最も高く,全体では10.1%であった。江戸時代では歯磨きの習慣があった武士が町人より罹患率が低いとされているが,喜運寺の結果は武士よりさらに低かった。したがって,堺の町人は武士以上に歯磨きの習慣があり,江戸時代の町人の口腔衛生環境が一様でないことが示唆される。愛知県東海市長光寺の江戸時代の子墓から約300体の乳幼児人骨が出土した。長光寺では土坑のみの埋葬で副葬品も少なく,喜運寺とは社会的環境が大きく異なるため,当時の社会構造を知る上でも重要な資料である。現在は人骨のクリーニングと保存処理を進めている。栄養状態などに左右されるエナメル質減形成の観察や炭素同位体分析で離乳時期を知る研究などの結果も踏まえ,江戸時代人の子供に対する死生観を解明する。
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Wataru Morita, Wataru Yano, Tomohito Nagaoka, Mikiko Abe, Hayato Ohshima, Masato Nakatsukasa
巻: - ページ: -
10.1111/joa.12180
人類学雑誌
巻: 121 ページ: 31-48