研究課題/領域番号 |
23501216
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
武田 昭子 昭和女子大学, 人間文化学部, 教授 (50124326)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 漆工品の編年 / 中世 / 下地調整技法 / 文化財学的手法 / 岩石鉱物学的手法 / 舶載漆器 / 彫漆器 / 漆文化 |
研究概要 |
本研究の目的は、品質を左右する重要な役割を果しながら未解明な点が多い下地調整技法を基軸に漆工技術の変遷を辿り、漆文化解明への一助とする。本期間内では、中世の国産及び舶載漆器の下地調整技法について、文化財科学に岩石・鉱物学的手法を加味し、調査事項を5項目にまとめ実施。本年の内容と成果は以下である。 (1)岩石鉱物学的見地を加味した文化財科学的調査は、鎌倉市所在の中世遺跡出土漆器塗膜23点の分析を実施。その結果、植物起源のケイ酸塩に富んだ下地であることが判明し、原材料採取地特定への重要な示唆が得られた。また、東日本大震災被災彫漆器の調査を行う機会が得られ、本年度は目視観察と2点の下地X線回折を実施。これまで彫漆器の構造や材質の報告例はなく、今後の研究の進展が待たれる。(2)下地塗膜断面の粒度分布調査は、基準資料を縄文から近世にかけて各時期より数点選別した。また、断面粒度分布調査の比較資料として、主な市販の地粉と砥粉の粒度分布を実施。(3)大陸製漆器検分調査は、宋・明時代の漆器生産地として著名な揚州で現代漆器工芸技術の調査を行った。国営も含め4工場を訪問した結果、合成樹脂を使用し、彫漆、螺鈿、漆絵など様々な加飾技法の製品を大量生産。購入した漆器の下地鉱物を分析した結果、福州漆器の下地鉱物とは異なる岩源だった。なお、メトロポリタン美術館調査は、東日本大震災の大陸製漆器調査が緊急に入ったため、これに振り替えた。(4)放射性炭素年代測定は、大陸製彫漆器を2点実施し、結果報告は来年度になる。(5)漆器下地の手板作製実験では、現在まで作製したサンプルを見直し、加えて前述標準資料の下地を検討し、来年度に作製整理する。今年度の研究成果発表としては、6月に日本文化財科学会、8月に東アジア文化遺産シンポジウムで実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は23、24年の両年度で、5項目の課題を設定し研究を行う。本年度は、全項目で研究に取り掛かったが、前述したように(2)と(5)が実験準備段階に留まっている。24年度に具体的な実験や作製に入る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
23,24年度の2年計画で実施する5項目の研究内容について、23年度実施分を検討し、また24年度に持ち越した事項も留意しながら、24年度研究分について研究計画に沿って遂行する。 ただし、"東洋漆器調査"地をアメリカ・メトロポリタン美術館からウイーン美術史美術館等に変更する。その理由は、24年9月に開催される国際保存修復学会(IIC)ウイーン大会における本研究の発表許可が、24年3月におりた。これに伴い、当初予定していたメトロポリタン美術館での東洋漆器調査を、同様な漆器資料を有するウイーン美術史美術館等での調査に変更して実施することとした。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度繰越金については、年代測定依頼者の計測の都合で、報告が24年度になることを確認している。 東洋漆器調査のためのアメリカ出張を予定していたが、上述の"研究推進の方策"に記したように、新たに加えたオーストリアでの研究発表出張に伴い、同様な資料を有するウイーン美術史美術館等での調査に変更する。このため、アメリカ出張費用は、IICウイーン大会研究発表および東洋漆器調査の交通費等に充当し使用する。その他の項目は、概ね当初の支出計画どおり執行予定である
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