研究課題/領域番号 |
23501217
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
伊藤 美香 昭和女子大学, 研究支援機器センター, 助教 (70276624)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 繊維鑑別 |
研究概要 |
本研究は、遺跡から出土した繊維など、繊維遺物を鑑別するための一助として、植物繊維を走査型電子顕微鏡で観測した画像を解析し(形態、繊維幅・断面積値の統計処理等)、データベースを構築することを目的としている。 上記の目的のため、まず、分析用繊維試料として、生産地等出処の明らかな繊維原料の収集を行った。本年度は、当初計画した栃木、群馬、新潟、福島、長野のうち、栃木と群馬の栽培地から麻(大麻)試料を、福島の栽培地から苧麻試料を入手した。いずれも、植物体としての茎、麻剥ぎ後の皮麻、麻挽き後の精麻を各加工段階の繊維試料を入手することができた。新潟と長野については、その後の調査で、現在は現地での植物栽培はされておらず、繊維の加工(織物生産)のみであることが判明したため、栽培地へ出向いての試料収集は叶わなかった。加工品(織物)についても収集し分析したいと考えているが、実施に至っていない。 収集した繊維の分析は、未処理試料と人工炭化、人工劣化させた試料の形態、繊維幅・断面積値の比較を行っている。特に麻(大麻)については、その葉に含まれる薬物特性のため、栽培には地方自治体の許可を得る必要があり、人目に触れない地域での栽培が義務付けられているため、繊維試料は植物体とは切り離されて論じられることが多いが、その植物体における繊維細胞分布を電子顕微鏡像としてのデータとして残せたことは有意義であったと考えている。人工炭化については、炉を用いて昇温速度4段階に変化させて各炭化状況におけるデータの集積を目指している。劣化状況についは、当初計画していた土中包埋による自然劣化は入手した試料量が計画時よりも増えてしまったため、酵素法による人工劣化に切り替えるべく、条件の検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
人工劣化の方法を当初計画の土中包埋による自然劣化から、酵素法による人工劣化に変更するにあたって、その条件設定等の検討に時間を要したため。 繊維断面積の計測方法を従来の紙重量法からより精密な画像解析ソフトを用いるようにしたため、一定時間に計測できる量が減ってしまったため。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は群馬、栃木、福島から繊維原料の収集を行った。その他、予定していた新潟および長野については、現在は繊維原料となる植物の栽培は行われておらず、現地へのサンプリングに赴かなかったため、予算額からの残金が生じた。長野の繊維原料については研究者仲間から栽培当時にサンプリングされた試料を分与してもらった。 平成24年度は当初、生産地等出処の明らかな繊維原料の収集のため、岩手、宮城、山形、富山、石川で栽培されている繊維原料のサンプリングを予定していたが、その後の調査で、石川と富山については、現在は原料植物は栽培されておらず、繊維加工(織物)としての伝統工芸品の生産地であることが判明、また、宮城と岩手については栽培は行われているものの、大麻繊維のため、栽培にあたって都道府県に申請した栽培許可申請において、他者への贈与が認められていないため、試料提供はできないとの回答があった。従って、本4県の試料については繊維原料の収集調査対象から外すこととした。そこで、新たに静岡で伝承されている葛布の繊維原料の収集を予定している。さらに、新潟、石川、富山をはじめとした織物産地からの繊維加工品(伝統工芸品)も分析試料として収集を行いたい考えである。 なお、これら収集した繊維原料および繊維については、引き続き、人工炭化および劣化させ、分析を継続する。また、これらのデータをデータベース化するためのソフトフェア等の検討にも着手する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、繊維原料の収集のための旅費として使用予定である。収集した繊維試料を分析する際の酵素等試薬代と消耗品代。そして、蓄積したデータを整理しデータベース化するためのソフトウェアおよびその環境作りのために使用する予定である。
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