研究課題/領域番号 |
23501220
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
北野 信彦 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター・伝統技術研究室, 室長 (90167370)
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研究分担者 |
吉田 直人 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 主任研究員 (80370998)
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 講師 (40409462)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | ベンガラ塗装 / 木造建造物 / 彩色材料 / 木彫彩色 / 乾性油 / 蜜陀技法 / ドーサ / 蒔絵塗装 |
研究概要 |
本年度は、4年計画の第1年目(初年度)として幾つかの建造物(建築文化財)の外観塗装材料や彩色材料に関する色相、変遷などに関する基礎調査を実施するとともに、とくにこれまで行ってきた建造物のベンガラ塗装に関する基礎調査の成果を纏めて一冊の報告書として纏めた。木造建造物のベンガラ塗装の性質と変遷に関する調査を行った建造物は、(1)元興寺五重小塔の取り外し部材、(2)海龍王寺五重小塔、(3)平等院鳳凰堂の取り外し部材と正面扉の裏面、(4)浄瑠璃寺本堂、(5)三佛寺奥院(投入堂)の取り外し部材、(6)海住山寺五重塔内陣柱、(7)島田神社本殿、(8)元興寺極楽坊取り外し部材、(9)厳島神社摂社大元神社本殿、(10)興福寺東金堂ほかの取り外し部材、(11)蓮華王院本堂(三十三間堂)、(12)初期の日光社寺建造物群、(13)浅草寺二天門、(14)白山神社境内の廃棄部材、(15)弁柄窯元旧片山家住宅、(16)厳島神社社殿、(17)銀閣寺観音殿、(18)旧岩崎家住宅室内壁紙の西洋顔料、などであり、これらの部材などに確認されるベンガラ塗装を調査した結果を纏めた。一方、建造物の彩色材料に関する調査は、瑞巌寺本堂の塗装彩色材料、都久夫須麻神社本堂の木彫彩色、荒胡子神社本殿の外観および木彫彩色材料などであり、瑞巌寺本堂の欄間木彫では、創建当初は基本的には白木にメインの動物のみに簡単な墨線を入れるもの、元和七年に塗装彩色を行った際に金箔を多用した極彩色とした履歴が明確となった。また、荒胡子神社の木彫の塗装彩色材料のは近代の合成顔料(エメラルドグリーンなど)が使用されていた。さらに、作業続行中ではあるが、今日使用されている天然岩絵具の彩色材料に関する色相、顔料粒子の形態と大きさ・集合状態、化学組成に関するデータベースの作成も並行して実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記で述べたように、(1)建造物の塗装彩色材料(おもに外観塗装材料)としては代表的で汎用性が高いベンガラ塗装に関する基本的な調査成果を纏める事ができ、今後これらの塗装彩色修理の施工や基本的な建築史や歴史・考古系の学問分野の進展に寄与するための基礎資料とすることができたこと。(2)伝統的な塗装彩色材料の性状と使用法に関する基礎資料として、具体的に桃山文化期の3つの建造物に関する調査を行うことができ、これらについても基礎的な材料の性状と適応法を理解することができたこと。(3)今日手に入れることが可能な顔料などの材料のデータベースを作成する道筋を構築することができたこと。これらにより、初年度の成果としての達成度はおおむね良好であると自己評価の判断を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、昨年度実施した建造物の塗装彩色材料の案件のうち、(1)瑞巌寺本堂における欄間木彫彩色に関する調査では、昨年度実施した顔料分析などの調査成果を踏まえて現状の劣化状態の把握図と元和年間の彩色施工当初の姿を復元した2種類のデータ比較を行う。そのためには、欄間木彫の白描線図の作成と、復元彩色図の作成(平面図)、さらには代表的な2枚の欄間木彫の裏表の三次元計測によるデータ集積(合計4画面)とこれをもとにした一部パーツ部分の樹脂レプリカの作成、このレプリカの彩色実験などを行い、資料活用に向けた模索事業を行う。(2)伝統的にあ塗装彩色技法として、漆塗装彩色でもなく膠塗装彩色でもない、乾性油を使用したいわゆる桐油塗装(蜜陀技法の応用)や膠塗装の変形であるドーサ塗装彩色を視野に入れた実験と手板作成、基礎調査を実施する。具体的には日光東照宮拝殿などの桐油彩色材料の履歴と性状に関する分析調査と各種手板作成などである。(3)伝統的な塗装材料であるベンガラ塗装に関連して、塗装当初当時の色調と材料を反映させた新塗料の開発と施工方法の策定を行う。具体的には平等院鳳凰堂の塗装修理に反映させる予定である。(4)劣化の著しい蒔絵塗装に関する塗装修理実験を実施する。具体的には昨年度実施した都久夫須麻神社本殿の取り外し蒔絵塗装部材には紫外線劣化が著しいため、この指定外部材を題材として伝統的は漆塗装修理と合成樹脂使用のコラボレーション実験を手板作成を交えて行いこの分野の進展に寄与する努力を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に作成する手板サンプルなどを用いた劣化促進実験を次年度以降は行い、各種の伝統的な塗装彩色の再評価を目指す。そのためには、まずこの研究費で購入した金属顕微鏡に設置するデジタルカメラをなるべく早い段階に購入してこれら駆使して性状調査などを実施する。そして上記で述べた(1)~(4)の具体的な案件を中核に据えてこれらの成果を挙げるよう作業を進める。
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