研究課題/領域番号 |
23501220
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
北野 信彦 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 伝統技術研究室長 (90167370)
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研究分担者 |
吉田 直人 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 主任研究員 (80370998)
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 講師 (40409462)
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キーワード | ベンガラ塗装 / 木造建造物 / 彩色材料 / 木彫彩色 / 乾性油 / 蜜陀技法 / ドーサ / 蒔絵塗装 |
研究概要 |
平成24年度は4年計画の第2年目として、1:幾つかの建造物(文化財建造物)の外観塗装および彩色材料の性質や色相、年代別塗装材料の変遷などに関する基礎調査、2:伝統的な塗装彩色材料である膠・ドーサ・乾性油系塗料およびこれらと合成樹脂をブレンドした手板試料の作成と曝露実験の開始、3:特に三次元形状であるために保存・修復・管理に苦慮することが多い欄間などの木彫彩色の保存活用方法の試考、などを実施した。 以下、具体的な実施内容成果を述べる。 1:以下の建造物(文化財建造物)部材の塗装彩色材料に関する基礎調査を行った。①瑞巌寺本堂欄間麻古調の塗装彩色材料、②豊国神社唐門木彫の塗装彩色材料、③醍醐寺三宝院惣門の塗装彩色材料、④平等院鳳凰堂の塗装彩色材料、⑤厳島神社本社本殿および客神社拝殿などの塗装材料、⑥厳島神社摂社荒胡子神社本殿の塗装彩色材料、⑦伝伏見城欄間木彫である詩仙堂所蔵欄間木彫の彩色材料、⑧二条城唐門の塗装彩色材料 2:伝統的な塗装彩色材料の再評価手板を作成し、曝露実験を実施した。手板は、顔料として赤色塗装を想定して市販の弁柄(放光堂製)使用し、以下20種類の膠着材料に交ぜた塗料を作成して暴露試験台に固定した。①膠のみ、②膠+明礬、③膠+明礬+プライマル、④膠+明礬+鵬砂、⑤膠+鵬砂、⑥膠+プライマル、⑦桐油+プライマル、⑧膠+明礬+桐油、⑨膠+桐油、⑩桐油+プライマル、⑪プライマルのみ、⑫日光法:膠+明礬、⑬日光法:膠+明礬+プライマル、⑭日光法:膠+明礬+鵬砂、⑮膠+桐油+鵬砂、⑯膠+プライマル、⑰桐油+プライマル、⑱日光法:膠+明礬+桐油、⑲桐油のみ、⑳桐油+鵬砂、である。暴露試験台は、当初は平等院鳳凰堂の南に位置する南橋の欄干東外側、その後、平等院鳳凰堂南正面池須浜に移動して据え付けた。この曝露試験自体は平成24年7月8日から開始し、3ヶ月および6ヶ月評価とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記で述べたように、(1)文化財建造物の塗装彩色材料(主に外観塗装材料)としては代表的で汎用性が高いベンガラ塗装および乾性油塗装に関する基礎的な調査を行ない、この成果を、平等院鳳凰堂や塩尻小野家住宅などの実際の文化財建造物の塗装修理の施工に生かすことができたこと、(2)伝統的な塗装彩色材料の性状と使用法に関する基礎資料として、具体的には極彩色の加飾が台頭した桃山文化期を代表する幾つかの塗装彩色材料に関する調査を行い、これらの基礎的な情報を得ることができたこと、(3)今日入手可能な顔料などの材料の耐候性に関するデータベースを作成する道筋を構築するために、20種類の手板を作成するとともに、これらの曝露試験を実施することで、これらの再評価を具体的にできたこと。(4)木彫彩色に関する具体的な活用方法を模索しするための三次元計測、これを使用した樹脂レプリカを作成し、分析調査を実施した成果から理解された彩色復元図のデータを参考とした資料を作成する資料活用の方法を模索できたこと。などが主な成果である。以上の実績を考慮に入れた結果が、第2年目の成果としての達成度はおおむね良好であると自己評価の判断を行った理由である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、昨年度実施した文化財建造物の塗装彩色材料の案件のうち、(1)瑞巌寺本堂における欄間木彫彩色に関する調査をさらに進め、最終的には欄間木彫の白描図作成、復元祭s傷の最終形の作成、さらには代表的な2面の欄間木彫の裏表の三次元計測しよるデータ集積(合計4面)とこれを基にした一部パーツ部分の樹脂レプリカの発展バージョンの作成、これに彩色復元図を参照した彩色を立体模型に施し、資料活用に向けた模索事業を完結させる。(2)伝統的な塗装彩色材料である乾性油系や膠塗装の変形バージョンであるドーサ塗装彩色に関する新たな手板作成と曝露実験を開始し、これらの再評価と、これらの耐候性を上げるための合成樹脂とのブレンドおよびコラボレーション手板の作成と評価実験を行い、実際の塗装彩色修理の施工に反映させる。また、これまで実施例が多くない、堂内環境の調査を行い、これらと伝統的な塗装彩色材料との関連性を明らかにするための現地調査も実施する。以上の内容を総合的に検討して、当該分野の進展に寄与する努力を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に実施した手板曝露実験の成果をさらに検討するとともに、新たな手板実験を開始する。また平成24年度に幾つか行った具体的な文化財建造物の塗装彩色材料、とりわけ桃山文化期の資料に関する基礎調査をさらに充実させ、年代別の材料や技術の変遷史を明らかにする。また、乾性油系塗料の基礎実験と合成樹脂と伝統的材料との相性に関する実験を実施し、検討を行う。
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