研究課題/領域番号 |
23501237
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小口 高 東京大学, 空間情報科学研究センター, 教授 (80221852)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 地形 / 地理情報システム / 山地 / 日本 / 台湾 |
研究概要 |
本年度は研究の背景の学術的な理解を深めることと,研究の基本的な考えを関連研究者に提示し,意見を乞うことに重点を置いた。前者については,本研究の主要な手法である地理情報システム(GIS),デジタル標高モデル(DEM),およびリモートセンシングを利用した地形学の研究に関するレビューを行った。レビューの際には,上記の手法の背景となる歴史的な発展,たとえばアナログ的な手法による地形の測量や計測に関する古典的な成果から,最新の技術や概念に関するまとめを行い,さらに今後の発展の可能性を論じた。その結果は,「地形学における地理情報システム」「(地形のマッピングにおける)データソース」「河川地形学におけるリモートセンシング・データ」という3つのレビュー論文としてまとめられた。このうち2編は海外出版社による英文書籍の章として公表され,残りの1編も海外の英文書籍に印刷中である。 後者については,日本や台湾のV字谷の形態的特徴を,多量のDEMデータを用いて分析し,結果を統計的に解析するともに,斜面プロセスや動的平衡の概念と関連付けた解釈を行った。特に,中~高山で卓越する傾斜約35度の直線的な斜面の地形学的意義を,侵食速度が速い山地における地形の発達過程と結びつけて論じた。この際には,反復して発生する斜面崩壊の効果を重視した。この研究の成果は,米国で開催され,世界の地形計測の主要研究者が集まった国際会議 Geomorphometry2011において,招待講演として発表した。この際には,参加していた多数の研究者と,提示した説の妥当性等に関する建設的な議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の初年度において重要な作業,すなわち既存研究の詳細なレビュー,研究の基礎となる仮説の構築と提示,および仮説に関する他の研究者との議論を行ったため,おおむね順調に進展していると判断した。一方,地形の具体的な調査は予定通りには実施できておらず,予算も当初予定よりも消化が少なくなっている。その理由は,東日本大震災に関する津波被災地の地形調査を,JSTの予算で急遽行うことになり,他の地形調査のための時間を確保しにくくなったためである。いわば不可抗力の原因による予定の変更であったが,次年度以降には状況を是正するとともに,当初は別のものとして行われた津波被災地の地形調査との関連も検討したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように,東日本大震災の発生ともない,その関係の地形調査が発生し,本研究費による調査の実施が遅れてしまった。また,本研究について発表し,海外研究者と議論を行った国際会議 Geomorphometry2011 には招待されたため,本研究費を使用しなかった。これらの理由により,予算が当初の予定よりも残っている状況にある。次年度も震災関連の調査は継続するが,今年度とは異なり想定外の状況ではないので,より計画的に複数の研究を進めることを重視したい。 震災関連で行っている調査では,津波が進入したリアス式海岸の谷の地形の詳しい分析が中心となっている。これは地域が沿岸域とはいえ,V字谷の形成と密接に関連する内容である。そこで,二つの研究を適切に関連づけて効率的に研究を進めることも検討したい。また,提示した仮説によるとV字谷の形成は斜面崩壊と密接に結びついており,さらに谷の下方の扇状地の発達とも関連する。そこで,斜面崩壊や扇状地に関する研究も積極的に進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
斜面崩壊に関する研究のためのリモートセンシングデータの購入とデータ分析環境の充実,中部山岳地域を中心とする日本国内の現地調査,台湾と中国北東部における現地調査,データ解析のためのアルバイトの雇用,および国際学会における研究発表を中心に,経費を使用する。海外での調査や学会発表など,比較的大きな経費を要する内容を含むので,繰り越し相当の予算が多いとはいえ,経費は十分に有効活用できると考えられる。
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