地下水流動パターンの可視化は、工学・理学・農学などの多方面で必須の技術である。本研究では、自然電位という物理現象の数値モデル化を通じて、地下の透水構造や地下水流動パターンを可視化することを目指した。自然電位とは、地表や地中に自然に発生している直流的な電位であり、地下水流動が主な発生源である。このため、従来から自然電位を用いた地下水流動推定の試みがなされてきた。しかし定性的解析や、単純なモデルを用いた定量的解析が主流であった。 そこで申請者らは、地表での自然電位の分布の数値モデル化を実施した。まず地下の透水構造および地下情報(水頭や地下水の流入・流出量)を仮定し、地表での自然電位分布を予測できる数値計算コードを新たに開発した。ここでは不飽和層の影響も加味した計算が可能である。本コードを利用し、地中に高透水異常層や低透水異常層を配置した際に発生する自然電位分布の特徴を系統的に分類した。これにより、地下透水構造の不均質の情報が自然電位分布から得られる可能性を示すことができた。次に、自然電位分布と数地点での地下水情報に基づいて、地下の透水構造を逆解析する手法を新たに開発した。ここで室内実験結果に基づいて、自然電位の発生のパラメータと透水係数を簡単な経験式で結びつけ、逆解析の不確定さを低減した。数値計算の結果、本逆解析手法によって地下の透水構造モデルを適正に再現できることが確認された。 本逆解析手法を、浅井戸における注水試験時の自然電位観測データに適用し、井戸周辺の透水構造の推定を行った。その結果、掘削結果により明らかとなっている透水構造に類似した結果を得ることに成功した。以上より、水文学的情報と自然電位の組み合わせによる、安価かつ効果的な透水構造推定スキームを確立できた。
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