研究課題
阿蘇カルデラとその周辺域には約220平方kmに及ぶわが国最大級の草原が広がっており、『日本書紀』などの記載から“千年の草原”といわれてきたが、科学的な根拠に乏しいことが問題であった。 本研究の目的は、この阿蘇の草原が (1) いつの時代から存在するのか、(2) どのような植生種によって構成されてきたのか、(3)どのような要因によって、草原が成立して維持されてきたのかを地質学的調査と植物珪酸体分析および微粒炭分析を行うことによって科学的に解明することである。植生を含む環境の変遷は、地域や地形種によって異なる可能性がある。そこで平成25年度は、阿蘇谷流域(阿蘇カルデラ北半分)において地形の異なる調査地点を設定して各調査断面の記載・観察・試料採取と植物珪酸体分析を行って、データの解析を実施した。その結果、阿蘇谷における完新世の植生変遷は、主要な地形構成種である外輪山・カルデラ壁・カルデラ床・中央火口丘群斜面で違っていることが明らかとなった。外輪山と中央火口丘群斜面では草原植生が優占しており、前者ではササ属-メダケ属草原、後者ではササ属-ススキ属草原へと変化していた。一方、カルデラ壁の急斜面では林床にササ属やメダケ属を伴う森林植生が継続していた。さらに、カルデラ床においてはカルデラ湖の消長に伴ってヨシを主体とする湿地・河川環境にあったことが明らかとなった。このように本年度の主要成果は、阿蘇谷流域における地形ごとの完新世植生変遷を把握できたことである。これらの結果も含めて研究の成果は、国際学術雑誌(査読付)などに掲載された。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、阿蘇谷流域における地形ごとの完新世植生変遷の概要を把握できるなど、研究はおおむね順調に進展した。
次年度は最終年度にあたるため,目的を達成するための現地調査・植物珪酸体分析・微粒炭分析を行って、阿蘇カルデラ周辺域における草原の歴史と成立要因に関する研究成果のとりまとめを進める。
阿蘇カルデラ周辺域における地層の年代を高精度で把握するために、加速器質量分析(AMS)法による放射性炭素年代測定を実施する予定であったが、目的に耐えうる試料が得られず、分析を行うことができなかった。研究目的を達するために必要な放射性炭素年代測定試料の発見に努める。さらに、植物珪酸体分析等も行って、阿蘇カルデラ周辺域における草原の歴史と成立要因の解明を進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)
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