阿蘇カルデラとその周辺域には約220平方kmに及ぶわが国最大級の草原が広がっており,『日本書紀』などの記載から"千年の草原"といわれてきたが,科学的な根拠に乏しいことが問題であった. 本研究の目的は,この阿蘇の草原が (1) いつの時代から存在するのか,(2) どのような植生種によって構成されてきたのか,(3)どのような要因によって,草原が成立して維持されてきたのかを地質学的調査と植物珪酸体分析および微粒炭分析を行うことによって科学的に解明することである. 最終年度にあたる平成26年度は,目的を達成するための現地調査・植物珪酸体分析・微粒炭分析を行って,阿蘇カルデラ周辺域における草原の歴史と成立要因に関する研究のとりまとめを進めた. 本研究では,地域や地形の異なる複数の調査断面における植物珪酸体・微粒炭分析結果から,阿蘇カルデラ周辺域では基本的に最近約9万年間にわたってイネ科草本が優占する草原植生下にあったことが明らかとなった.ただ,約13500年前以降の完新世においては,カルデラ西方域でタケ亜科植物(ササ属-メダケ属)を主体とした草原,東方域ではススキ属を主体とした草原が続いていたなど,カルデラの西方域と東方域とでは,完新世における草原植生の構成種に明瞭な違いが認められた.その原因として考えられるのは,微粒炭分析によって明らかとなった火事発生頻度の違いである.つまり完新世に阿蘇カルデラ東方域では西方域に比べて高頻度の火事が発生したことによってススキ草原が継続しており,それは人間による火入れが原因である可能性も示唆された. 研究期間全体を通じての成果は,3編の国際学術雑誌(査読付)などに掲載された.
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