研究課題/領域番号 |
23501247
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
青野 靖之 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40231104)
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キーワード | 植物季節 / 気候復元 / 京都 / 江戸 / 太陽活動 / 文献史料 / 開花 / 紅葉 |
研究概要 |
本研究では,平成24年度において,過去に京都や江戸において書かれた古記録に残された開花,結実(成熟),紅葉といった植物季節現象に関する記録のさらなる調査・整理・解析を通し,19世紀以前の長期にわたる気温推移の復元を行った。 京都における春季のヤマザクラの満開日による9世紀以降の3月平均気温推移の復元を行った結果については,本年度に投稿論文として出版・公開された。太陽活動が活発であった10世紀における温暖な時代や,太陽活動極小期に対応する寒冷な時代の影響が,明瞭に現れたことについて,一般に研究成果を公表した。 一方,京都の史料からカエデ類の紅葉日のデータをさらに収集・精査し,それによる10月の気温推移の復元も試みた。紅葉日から気温への読替方法の構築後,調査されたデータによる気温の復元を試みた結果,14~15世紀の気温の低下傾向や,17世紀以降の全般的に低い気温推移などを復元できた。全般的にサクラによる3月平均気温のものと類似していた。また気温復元値の年々推移には3月より10月の方が全般的に10年程度,先行して変化する傾向が見られた。 平成24年度では,春の江戸におけるヤマザクラの満開日データについてもさらに調査を進め,1636年~1905年の期間について合計207年分のデータを収集した。これによる江戸の3月平均気温は,太陽活動のマウンダー極小期にあたる17世紀後半とドルトン極小期にあたる19世紀初頭に大きく低下した。これらは京都の3月平均気温の復元推移共通する特徴であり,春季の気温が太陽活動の盛衰と同期して変化した地域が大きく広がっていることが確かめられた。 このほかの植物季節現象についても調査,解析を行った。たとえば京都では,初夏に開花するカキツバタの満開日データを文献史料から調査しそれを解析することで,3~5月の気温推移の復元が可能になることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヤマザクラの満開日による春季(3月)の気温復元については順調に進み,西暦890年以降の気温の推移を連続的に明らかにしたなど,新たな知見も得られ,その結果については平成24年度に学術誌に掲載された。 カエデ属植物の紅葉日による秋季の気温復元については,解析に利用できるデータを用いて14世紀以降の推移を復元した結果を論文に取りまとめ中である。なお,秋季気温の変化は春季気温の変化に対して先行して推移する傾向がみられ,この現象の発生理由などに関する考察に手間取っており,まだ論文投稿には至っていない。 江戸における春季気温の復元については,現在,取りまとめ・投稿論文の執筆の最中である。 春季・秋季以外の気温復元に利用可能な植物についても調査や解析を始めており,一部については平成24年度に学会で研究発表も行っている。天気記録などと植物季節現象の遅速との関係の解析については,平成24年度でも未着手である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度では以下の①~③を中心に研究を推進する。 ①前年度に引き続いて,江戸の春季・京都の秋季における気温復元結果を学術誌などで取りまとめ,研究結果の一般公開を順次進める。現在,研究結果をまとめているカエデの紅葉日による秋季気温の復元については,和文誌で,また江戸におけるヤマザクラの満開日による春季気温の復元については海外誌での発表を目標とする。 ②これまで得られている気温の復元推移で見られる類似点,相違点などについて,太陽活動や火山噴火などの要因との関連性とからめて,考察を進める。特に25年度前半では学会参加・発表を通して,様々な考え,コメントなどを受け,今後の研究の取りまとめ・論文投稿に生かしていく。また,天気現象と植物季節現象の遅速との関係についても,簡単な調査・解析を試みたい。 ③平成25年は研究最終年度にあたることから,本研究の全般的な取りまとめを行う。本研究の研究成果を広く公開する目的で冊子体の研究成果報告書(詳細版・資料編)を別途,本年度中に作成し,関連する研究者・研究施設などへの配布を予定している。なお,この研究成果報告書(詳細版)では得られた研究成果を詳細にまとめるとともに,研究を通して得られた植物季節の生のデータを多く資料編として掲載することにより,研究成果報告書の資料性も高めるつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の①に関連して,学術誌への投稿(投稿料や英文校閲など)に関して,また③に関連して研究成果報告書(印刷費など)に関する支出を多めに考えている。また上記の②と関連して,気象学関連の学会のみならず,天文学・地球惑星科学(宇宙気候学)や地理学,歴史学など,さまざまな専門の研究発表の場で,引き続き研究成果の発表ならびに学術的な情報交換の機会も得たいことから旅費への支出も考えている。
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