研究課題/領域番号 |
23501248
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
松本 秀明 東北学院大学, 教養学部, 教授 (30173909)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 洪水 / 土砂災害 / 完新世 / 気候変動 / 河岸段丘 |
研究概要 |
現有設備である水路実験装置(長さ3m・幅1m,河川勾配,流量,掃流土砂量が可変)について,水路への流水の供給システムを本研究の目的に合わせて設定変更するめの事前実験を行った。その結果,流水の供給量を一定にするために,水量可変水中ポンプの設置が有効であることを確認した。これによって,段丘面離水に際して同調的に形成されると考えられる旧河道状地形の形成プロセスを実験的に再現することを可能とし,河岸段丘の編年に際して段丘面上に特徴的に残される旧河道地形の有効性を明確にすることが可能となった。 岩手県奥州市を流れる衣川の4段の完新世段丘において,段丘面上に残る旧河道においてハンドオーガーによる掘削を行い,放射性炭素年代測定により河道放棄年代を求めた。しかし,旧河道河床堆積物と堆積段丘構成層との区別が困難であり,より多くの旧河道の掘削が必要であることが分かった。現段階では衣川の完新世段丘の調査において,(1)最終氷期に形成された段丘面を僅かに侵食する9000~8000年前の衣川I面の形成,(2)その後,河床の急激な低下,(3)そして河床の上昇による衣川II面の形成,(4)衣川II面の形成後,順次河床が低下し,衣川III面,IV面が形成され現在に至ることが求められたが,今後さらにデータの蓄積が必要である。 そのほか,仙台平野を流下する七北田川下流低地において,4000~3000年前まで広がっていた内湾(潟湖)が,約2500年前,1500年前の洪水堆積物によって急速に埋積され.いることを確認した。これらは本研究課題設定の前提でもある仙台平野における土砂供給量の時期的変化を裏付ける結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者のこれまでの研究において,河川流域下流部に位置する臨海沖積低地の「自然堤防-旧河道」地形の調査・研究から,完新世に少なくとも2回の多量の土砂移動期が存在することが求められてきた。本研究課題ではそれらの時期に対応して河川中流域に土石流発生頻度の増大や斜面崩壊多発期があった可能性を基礎に,河川中・上流部における土石流性扇状地や斜面崩壊発生の時期を求め,土砂移動量増大期の存在を確認しようとするものである。また同時に,千年規模の巨大洪水や土石流発生等について「過去の事実」を根拠として自然災害への備えにかかる情報を提供しようとするものである。 平成23年度においては,仙台平野北部に位置する七北田川下流域において,中・上流で発生したと考えられる大規模土石流,斜面崩壊等を受けた形で,完新世に少なくとも2度の巨大な土砂流入を確認した。さらに,岩手県衣川中・下流においては急激な河床上昇期があることも明らかにされつつある。この河床上昇現象は従来の調査・研究において仙台平野を流下する広瀬川中流域においても認められた現象である。このような事象を踏まえて,今後さらに事例数を増やすことで,本研究課題の目的が達せされるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2011年に発生した東日本大震災では千年規模の巨大災害が発生した。そのような災害から人間生活を守るために建造されてきた防潮堤,堤防などの構造物がこの規模の現象に対し無力であることが明らかとなった。したがって,巨大災害に際しては構造物により人間社会を守るだけでなく,千年規模の過去の巨大現象の履歴を明らかにし,そのような事象が存在したことを我々は承知しておくことが必要である。これは大津波ばかりでなく甚大な量の降雨により生じる大洪水・大規模土石流・大規模斜面崩壊についても同様である。 今後は次に示す項目において,大規模な土砂移動により生じた地形変化の時期とその実態の調査を継続してゆく。(1)完新世の河岸段丘地形の形成要因の一部を構成すると考えられる急激な河床高度上昇期の存在を,岩手県衣川流域および宮城県広瀬川流域について明らかにする。(2)河川中・上流で生じた急激な土砂生産現象に伴い発生する河川下流部の急速な土砂堆積(自然堤防の形成や潟湖埋積現象)について明らかにする。(3)宮城県東松島市宮戸島での土石流堆積物の堆積年代の特定。 また同時に,本研究課題終了後に計画している「巨大災害履歴地図(仮称)」作成の可能性を探ってい行きたい。これまで人間の歴史として記録されてきた災害履歴は古くて近世に遡る程度であり,千年規模の災害のほとんどは記録されていない。千年規模の現象を理解するには過去数千年間にわたるデータの蓄積が必要である。「巨大災害履歴地図(仮称)」は先史時代(古墳時代,弥生時代そして縄文時代を想定)に発生した巨大災害を,表層堆積物や考古学的な調査により明らかにし,図示しようとするものである。図の性格上,地形学という分野に限定されるものではなく,地形学に加え,地質学,考古学,歴史学など,過去の諸現象を研究対象とする分野横断の協力が必要な大事業である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,完新世河岸段丘地形の形成,そして大規模土石流や大規模斜面崩壊の発生時期にかかる地形調査,堆積物の採取,および土質分析,年代測定が中心となる。 物品費:旧河道掘削のための消耗品として,ハンドオーガーを中心とする野外調査で使用する器具の購入を予定している。 旅費:岩手県衣川,宮城県広瀬川,宮城県東松島市宮戸島の野外調査および既存ボーリング資料収集のための旅費として使用する。 人件費・謝金:採取した土質試料の粒度分析,化学分析の補助者として謝金の使用を計画している。 その他:採取した土質試料について,地形現象の時期特定のため,放射性炭素年代測定を依頼する計画である。
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