研究課題/領域番号 |
23501248
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
松本 秀明 東北学院大学, 教養学部, 教授 (30173909)
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キーワード | 沖積平野 / 完新世 / 土砂移動 / 洪水 / 土石流 / 斜面崩壊 |
研究概要 |
本研究では仙台平野を例に,流下する3河川下流域に展開する扇状地,自然堤防,旧河道などの河成地形の分布と形成年代を調査した。その結果,過去約4000年間において,2回の土砂移動卓越時期の存在を明らかにした。概要は下の通りである。 1.名取川は支流の広瀬川とともに,仙台平野の中では河成作用の大きな河川であり,下流域に半径5㎞の扇形の合流扇状地を形成している。扇状地上には多くの「自然堤防-旧河道」地形が分布するが,そのなかで顕著な15筋の旧河道の河道放棄年代を求めた結果,河道の放棄は3090yrBP以降540yrBPまでの間,ほぼランダムに生じていたことが明らかになった。また,そのなかで2500~2400yrBPに形成された「自然堤防-旧河道」地形が突出して規模が大きいことが求められた。 2.七北田川は仙台平野を流下する3河川の中で河成作用が最も小さな河川であるが,下流域には顕著な「自然堤防-旧河道」地形が5筋認められる。それらの形成年代は1500yrBPと2400yrBPに2例づつ,そして910yrBPに1例あることが認められた。一方,阿武隈川は大河川であるが,内陸部の角田盆地において土砂を落とし,臨海部への土砂供給量は大きくない。しかし,左岸側に1500yrBP前後に形成された「自然堤防-旧河道」地形が,右岸側には2600~2400yrBPに形成された同地形が大規模に残されていることが分かっている。そのほか,宮城県北部の江合川流域においても2500yrBP前後に巨大な洪水が発生していたことが求められつつある。 3.以上から,1600~1500yrBPと2600~2400yrBPという2つの時期に,河川中・上流域を含めた土砂移動が特に活発であった時期の存在が浮かび上がりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,地表に残された土石流性扇状地や巨大洪水堆積物である大規模自然堤防地形の形成時期を求めることを通して過去数千年間の土砂移動量の増減を求め,千年規模の土砂災害の履歴を求めようとするものである。 これまでに,仙台平野を例に多量の土砂を伴う巨大洪水により後背湿地上に形成された「自然堤防-旧河道」地形の形成年代を求めること,そして名取川の支流の広瀬川の中・上流部における完新世の河床高度変化の復元を行ってきた。前者については,河川下流域の仙台平野において2600~2400yrBPと1500~1400yrBPの2つの時期に多量の土砂を伴う巨大洪水の発生頻度が高かったことが求められつつある。後者については未だ明瞭な成果を示すに至っていないが,氷期の段丘形成後,9000yrBPに侵食段丘としての完新世I面が形成され,その後急激に河床の低下があった後,2700~2500yrBP前後にかけて大きく河床が上昇し堆積段丘(完新世II面)が形成されている事例を見いだした。このような 河床高度の急激な上昇は,気候変動に誘発された河川沿岸の斜面崩壊などのローカルな現象が関連しているのではないかと考えるに至った。 上に示した様に,河川中・上流部で生じた現象と河川下流部で生じた現象を時系列的に連関させることにより,完新世後期の土砂移動の卓越期の存在が明らかにされ得ると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は本研究課題の最終年度である。①現在調査中である七北田川下流部の地表下に見いだされた古墳時代の水田跡を覆う厚い洪水堆積物の分布域の特定と年代測定により,おそらく1500yrBPに生じた第3の巨大洪水痕跡を明らかにすること。②仙台平野南端部で行われている発掘調査現場で見いだされた2500yrBPの土石流堆積物についての現地調査および詳細検討,③宮城県松島湾の宮戸島で実施された土石流性扇状地でのボーリング調査で得られた堆積物コアの分析,④仙台平野名取川左岸に認められる土石流性扇状地で実施された考古学発掘調査で得られた堆積物試料の分析,そして⑤広瀬川沿岸に生じたと考えられる大規模斜面崩壊の時期の特定を行うことで,2600~2400yrBPおよび1500~1400yrBPの土砂移動増大の背景を考えてゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は以下の調査・分析を実施するために研究費を使用する。 1.残された一部の自然堤防堆積物の分布状況(層厚+分布範囲)を求めるために野外調査と簡易ボーリング調査を実施する(野外調査補助謝金,調査器具の補充,旅費)。 2.大規模洪水土砂(自然堤防堆積物)の堆積年代,河道変遷の発生年代,大規模斜面崩壊の年代測定(分析依頼)を実施する。 3.ボーリングコアおよび土層断面から採取した堆積物の化学分析,物理分析を実施し(分析補助謝金,ガラス器具等の消耗品),堆積環境を復元する。
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