研究課題/領域番号 |
23501270
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
吉川 大和 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (20274227)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 癌の転移・浸潤 / 細胞・組織 / 細胞接着 / 細胞運動 / 細胞外マトリックス / ラミニン / インテグリン / 免疫グロブリンスーパーファミリー |
研究概要 |
ルテランは免疫グロブリンスーパーファミリーの 1 つであり、基底膜の主要な分子であるラミニンα5 鎖の特異的な受容体である。ルテランとラミニンα5 鎖の発現パターンから、その結合はがん細胞の接着および運動促進に関与することが示唆されている。これまでに、市販されているルテラン抗体のなかにルテランとラミニンα5 鎖の結合を阻害するモノクローナル抗体を見出した。結合を阻害するモノクローナル抗体は非常に有用であり、例えばインテグリンの結合阻害抗体は細胞接着および運動メカニズムの解明に大きく貢献してきた。本年度は、ルテランとラミニンα5 鎖の結合を阻害する抗ルテラン・モノクローナル抗体のエピトープがラミニンα5 鎖の結合部位もしくはその近傍である可能性が高いことから、エピトープマッピングによるラミニンα5 鎖の結合部位の同定を中心に行なった。ルテランの細胞外領域は 5 つのドメインから構成されている。各ドメインを C 末端から欠損させた欠損型ルテランを作製して、阻害抗体が認識するドメインを同定したところ、N 末から 2 番目のドメインにエピトープがあることが明らかになった。さらに、この抗体がマウス由来であることから、マウスとヒトのルテランのアミノ酸配列を比較し、抗原候補部位にマウスでのアミノ酸を導入して阻害抗体のエピトープマッピングを行った。その結果、175番目の Arg がエピトープを形成する重要なアミノ酸であることが明らかになった。さらに 175番目の Arg は、LU4 と呼ばれるヒトのルテラン血液型の抗原部位であり、この抗体は LU4 を識別する抗体であることが明らかになった。また、このエピトープはラミニンα5鎖への結合に関与しないことから、抗体の阻害は空間的であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成 23 年度は、(1) 阻害抗体によるラミニンα5 鎖への細胞接着および運動におけるルテランの役割の解明および、(2) エピトープマッピングによるラミニンα5 鎖の結合部位の同定を目的として研究を遂行した。(1) は、ラミニンα5 鎖を含む組換えラミニンの調製に時間を費やしたが、細胞接着および細胞運動実験などの予備実験をおこない阻害抗体を使用する実験条件を決定することができた。これまで細胞運動の測定にはボイデンチャンバー、スクラッチアッセイなどが用いられてきたが、キーエンス BZ-8000 顕微鏡および TOKAIHIT の顕微鏡用培養装置を用いて細胞の動画を撮影し、ImageJ の Plugins である Manual tracking、Chemotaxis Tool で細胞運動を解析できるようになった。(2) は、研究実績の概要に示すようにエピトープ形成に必要なアミノ酸のひとつを同定することができた。しかしながら、エピトープの形成には複数のアミノ酸が要求されているが残りのアミノ酸についてはまだ同定できていない。(2) の内容の一部は、Kikkawa, Y, et al., PLoS One. 6: e23329 (2011) として報告した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に研究の推進が遅くなった阻害抗体によるラミニンα5 鎖への細胞接着および運動におけるルテランの役割の解明を中心におこなう。これまでの研究により、ラミニンα5 鎖によって細胞接着および運動が促進される肺癌由来の A549 細胞について受容体発現パターンを明らかにしてきた。A549 細胞を使用して細胞接着および運動アッセイを行ない、ラミニンα5 鎖による接着および運動におけるルテランの関与の割合を明らかにする。さらに、肝細胞癌由来の HuH-7 についても受容体発現パターンを明らかにし、同様のアッセイを行なう。また、ルテランは癌化によって発現が上昇する。ルテランの発現をテトラサイクリンの誘導発現系により誘導し、優位なルテランの発現量がラミニンα5 鎖に対する細胞接着および運動に与える影響を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成 23 年度は、論文投稿時に英文の校正を要求されなかったので謝金の使用がなかった、参加を予定していた Pan Pacific Connective Tissue Societies Symposium (米国) が行なわれなかったため旅費の使用が減少し、繰越金が生じた。平成 24 年度は、繰越金を含めた旅費により、研究成果を Pan Pacific Connective Tissue Societies Symposium (米国) の代わりとなる American Society for Matrix Biology (米国) および American Society for Cell Biology (米国) にて発表する。物品費は、細胞培養用の培地および添加剤、ピペット、フラスコ、抗体などの購入に使用する。人件費・謝金は、英文の校正などに使用する。
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