研究概要 |
Ink4a/Arf 遺伝子座より転写翻訳されるInk4aとArfは細胞ストレス性の刺激に応答して細胞周期に抑制的に働く癌抑制遺伝子であるが、一方でInk4a/Arfのノックアウトや低酸素状態などストレス応答性のInk4a/Arfの発現上昇を抑制する条件下でinduced pluripotent stem cells(iPS)の作成効率が高まるという報告より、細胞工学的応用のターゲット因子としての可能性も期待されている。我々はInk4a/Arf の制御による分化・脱分化系への影響を検討するため、iPS誘導因子のOct4,Sox,2,Klf4,c-mycを発現するアデノウイルスベクターを作成した。これをマウス胎児繊維芽細胞(MEF)に導入したところ、アルカリホスファターゼ染色陽性をしめすコロニーが得られ、免疫蛍光染色によりマーカータンパク質のNanog、Ssea1等の発現が確認された。一方で、最近ではiPSを経ないで遺伝子導入により直接目的組織に分化誘導させる手法が開発されつつあり、その一例として注目されているものに直接心筋誘導系(iCM)があげられる。この系は繊維芽細胞をGata4, Mef2c及びTbx5の同時発現により直接心筋細胞に分化させる手法で、心筋梗塞により失われた心筋を補填する根本的な治療法として期待されている。我々はこのiCM系におけるInk4a/Arfの影響を検討することを目的として、この三因子を同時発現するアデノウイルスベクターを構築し、これをMEFに感染させたところ2週間後に心筋細胞のマーカー遺伝子のcTnT(cardiac Troponin T)とActininのmRNAの増大がリアルタイムPCR法において認められた。またcTnTとActininに対する抗体を用いて細胞を標識し、FACSにより検出を試みたところ、約20%の細胞で発現が認められた。
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次年度の研究費の使用計画 |
ウシ胎児血清 100,000円、培地類 200,000円、抗体類 300,000円、DNA合成費 100,000円、shRNA作成費 100,000円、 Real-timePCR用試薬100,000円、プラスチック製品 100,000円酵素類 100,000円、有機溶媒・試薬類 100,000円、旅費100,000円 二年度以降はアデノウイルスを用いたiPS構築系および心筋細胞作成条件検討のための細胞培養用品と、免疫染色用抗体が必要になるため、これらの購入費を多めに計上した。 前年度の繰り越し予算が発生した状況として、年度末に購入予定の抗体の国内在庫がなく、購入を次年度に繰り越したなどの理由があげられる。
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