研究概要 |
がん遺伝子Aktは多くのがんにおいて異常に活性化しており、Akt活性化はがん化を強く促進する要因の一つである。Aktは正常細胞ではがん抑制遺伝子p53によって、活性化が抑制されている。ところが、がんのほとんどのものではがん抑制遺伝子p53の機能不全が認められており、がん細胞ではAktが抑制されなくなっている。 我々は、これまで機能未知であったPHLDA3遺伝子が、p53によって誘導される遺伝子である事を見いだし、PHLDA3がp53によるAkt抑制を担う重要な遺伝子である事を初めて明らかにした(Cell, Vol. 136, pp. 535-550, 2009)。PHLDA3遺伝子は、細胞膜に存在するイノシトールリン脂質(PIPs)との結合に働くPHドメインのみから構成されるタンパク質をコードしている。一方、AktもPHドメインを持つタンパク質であり、活性化にはPHドメインを介して細胞膜に局在する事が必須である。PHLDA3は、Aktのいわば内在的に発現するdominant negative体として機能し、AktとPIPsとの結合を直接阻害する。その結果、Aktの細胞膜局在は阻害され、下流の生存シグナルは伝達されない。 これまでにIn silico構造解析によりPHLDA3の構造解析を行い、PHLDA3のモデル構造を決定した。今後、より詳細な構造解析を進め、PHLDA3とPIPsの複合体の構造を決定する。さらには、PHLDA3がAktとPIPsの複合体形成を阻害するメカニズムを解明し、PHLDA3タンパク質をベースとしたAkt標的分子標的抗がん剤の開発に発展させる。 本研究を遂行する事で、生存シグナルの伝達において中心的な役割を担うAktの活性制御メカニズムの解明、加えて将来的に非常に有用な抗がん剤の開発につながる研究成果が得られると考える。
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