研究課題
個々の患者の免疫記憶に対応したペプチドを用いるテーラーメイドペプチドワクチン療法では、従来型のがんペプチドワクチンに比し、各段に高い臨床効果が得られるようになった。しかしながら、個々の患者の多様性に対応するためには多くの種類のワクチン候補ペプチドを事前に用意しなければならず、また、HLA検査や免疫検査などの特殊検査が必要であり、一般医療へ移行するには多くの問題がある。そこで、本研究ではテーラーメイドワクチンと同等以上の臨床効果を有し、かつ事前の特殊検査を必要としない非テーラーメイド型のマルチペプチド混合ワクチンの開発を行う。本年度は以下の研究を実施した。1.がん患者および健常人血清中抗ペプチドIgG抗体の網羅的解析およびワクチン候補ペプチドパネルに対するCTL反応の網羅的解析:過去のがんワクチン臨床試験に参加した患者のワクチン投与前の血液検体および健常人血清を用いて、31種類のワクチン候補ペプチドパネルに対する血中IgG抗体の反応性を、マイクロサスペンジョンアレイを用いて解析した。また、ワクチン投与前後の血液検体を用いて、31種類のワクチン候補ペプチドパネルに対するCTLの反応性を、インターフェロンガンマ産生を指標としてELISPOT法により検討した。2.がん患者の免疫反応性に基づくワクチン候補ペプチドの絞り込み:上記1の解析結果に基づき、患者血中のIgGと高頻度に反応し、かつCTL誘導能の高いペプチドを20種に絞り込むことができた。3.混合ワクチンの製剤学的検討:上記2で絞り込んだペプチドについて、混合溶液とした場合の溶解性・溶解方法の検討を行った。その結果、溶媒系の異なる12種と8種のペプチドからなる混合溶液2種を作製し、それらを用事混合ののち、さらにフロイント不完全アジュバントと混合、エマルジョン製剤とすることとした。また混合溶液の安定性についての検討も行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定では以下の研究を実施することとなっている。1)汎HLA型に適応可能なワクチン候補ペプチドパネルの充実。2)がん患者および健常人血清中抗ペプチドIgG抗体の網羅的解析。3)ワクチン候補ペプチドパネルに対するCTL反応の網羅的解析。4)がん患者の免疫反応性に基づくワクチン候補ペプチドの絞り込み。5)混合ワクチンの製剤学的検討。これらのうち、2)~5)については、研究実績の概要に示した通り、当初予定のほぼ100%の達成度が得られた。また、2)および3)の研究結果より、現状のワクチン候補ペプチドパネルでもHLA-A26およびHLA-A3スーパータイプの患者に対し十分対応可能であり、1)で示した「汎HLA型に適応可能なワクチン候補ペプチドパネルの充実」については実施する必要なしとの結論に至った。 以上のことより、当初の予定の研究を実施した場合に得られる予想成果にほぼ100%達したと判断され、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
当初の予定では、24年度以降、以下の研究課題についても実施することとなっている。1)マウスモデルによる混合ワクチンの免疫学的解析。2)マウスモデルによる混合ワクチンの抗腫瘍効果の検討。3)マルチペプチド混合ワクチン臨床試験参加者の免疫学的解析。4)予後因子としての各種遺伝子発現の探索。当初予定立案時には臨床試験の具体的な実施計画はなかったために、動物実験を先行して行い、その後、臨床試験の実施準備に入る予定であった。しかしながら、24年度上旬にマルチペプチド混合ワクチンを用いた臨床試験が医師主導治験として開始されることとなった。そこで、24年度は特に、「3)マルチペプチド混合ワクチン臨床試験参加者の免疫学的解析」について重点的に研究を進めることとする。その他の事項についても24年度及び25年度にかけて推進する予定である。
当初申請書に示された予算のとおりであり、変更はない。
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