研究概要 |
【はじめに】肝細胞癌術後の肝内転移を含む再発は原発巣の悪性度に依存するものであり従来の悪性度マーカーとしてはAFP, AFPL3, PIVKAIIなどが報告されているが十分ではない。FABP5はこれまで膵癌、乳癌、前立腺癌などで腫瘍の増殖、浸潤に関与していると報告されているが肝細胞癌における報告は未だにない。【目的】肝細胞癌組織および肝癌細胞株を用いてFABP5の発現と肝細胞癌における臨床的意義ならびに悪性度の評価を解明することを目的とした。【対象と方法】対象は1997年から2006年までの当科で施行した肝細胞癌初回肝切除例243例において抗FABP5抗体を用いて免疫組織化学染色を施行した。腫瘍細胞に対する染色強度の定義は、FABP5-:陽性染色なし/細胞質にわずかに染色を認めるもの、FABP5+:細胞質にびまん性に染色を認めるものとし、上記2群で予後、再発、病理学診断の比較を検討した。肝癌細胞株においては、FABP5高発現株に対しRNAi法を用いて増殖能、浸潤能の差を検討した。【結果】FABP5-群は111例(45.7%)、FABP5+群は132例(54.3%)であった。予後、再発の検討では5年生存率がFABP5-群で89.9%、FABP5+群で59.5% (p<0.0001)、5年無再発生存率がFABP5-群で47.2%、FABP5+群で23.7% (p<0.0001)といずれも2群間で有意差を認め、臨床病理学的因子との相関関係ではFABP5の発現とAFP, AFP-L3%, PIVKA-II, 腫瘍径, 肉眼的/顕微鏡的脈管侵襲, 分化度と相関関係を認めた(p<0.05)。肝癌細胞株においては、RNAi群がコントロール群と比較して増殖能、浸潤能いずれにおいても有意な低下を認めた(p<0.05)。【考察】肝細胞癌におけるFABP5の発現は予後、再発、腫瘍の悪性度に非常に強い相関性を示した。分子生物学手解析により悪性度と深く関係していることが明らかとなり肝細胞癌の新たなバイオマーカー、新しい治療のターゲット分子として強く期待される。
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