研究概要 |
筑波大学附属病院で切除された肺腫瘍を用いたArray-CGH解析で野口分類Type A,BとType D,Eを比較すると、Type D,Eにおいて解析対象の786遺伝子中33遺伝子に有意に増幅が認められ、そのうちの22遺伝子が3q領域に認められ、その中の3q26領域に7遺伝子が含まれていた。3q26領域で増幅がみられた7遺伝子中6遺伝子、ECT2, EIF5A2, EVI-1, PIK3CA, TNFSF10, SKILを対象にし、101例の肺癌症例に対してqPCRを行って検証した結果、ECT2,EIF5A2,PIK3CA,TNFSF10では、Type A/Bでの増幅は1.5未満かつType D/Eで1.5以上の増幅を認めた。 ECT2,EIF5A2,PIK3CA,TNFSF10について免疫染色(IHC)を行い、qPCRとの相関を調べた結果、ECT2でIHCとqPCRの相関係数が0.40と相関を認めた。ECT2とKi-67およびMitotic indexは各々0.76, 0.87と高い相関を認めた。 IHC結果と病理学的因子や予後との関連を調べたところ、予後やリンパ節転移、静脈浸襲、病理病期、組織亜型について有意差を認めた。 validationのために国立がんセンター中央病院の65症例を用いECT2のSNP解析を行ったところ、types C,Dの18例にのみ増幅(CN>3)を認めた。また早期肺腺癌200例のcopy number assayでは3q26上に47例(24%)で増幅が検出された。さらに早期肺腺癌198例での遺伝子増幅とRNAの発現解析では、ECT2, PIK3CAに2遺伝子が有意に発現上昇していた。また、早期肺腺癌204例を用いてcDNA microarrayを行い、Prognoscanで解析を行ったところ、ECT2の高発現群は有意に予後不良であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小型肺腺癌の中で上皮内腺癌(野口分類Type A,B)と早期の浸潤癌(野口分類Type D,E)に対して正常部と腫瘍部の差次で得られた遺伝子を標的としArray-CGH解析を行い、有意な増幅領域である3q26領域を明らかにし、その領域に存在する遺伝子群について免疫染色、qPCRを行い、また病理学的因子や予後の関連を検討した結果、3q26領域に存在する遺伝子の中でもECT2の発現亢進は予後に関するバイオマーカーであることを見いだした。 当院での手術症例を用いた検討では浸潤に関与する因子において有意差が認められたと考えられ、さらに国立がんセンター中央病院の65症例を用いたSNP解析、204症例を用いたcDNA microarrayでの結果でもECT2の増幅、高発現群は浸潤癌にみられ、高発現群は予後不良の結果も得られた。他施設かつ多数症例での検証が得られたので、実験は順調に推移していると考える。
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