研究概要 |
我々は上皮内肺腺癌から初期浸潤癌を経て顕在癌に至る多段階発癌過程の形態所見を基盤にし、ゲノムCGHを用いて初期浸潤癌と上皮内腺癌の間のゲノム異常を網羅的に解析した。この研究の中で3q26領域に特徴的な増幅領域があることを突き止め、この領域の中でも3q26.1-3q26.2に位置するECT2遺伝子は増幅と蛋白発現が良く相関し、かつ、発現蛋白が過剰な症例や増幅の見られる症例は予後が悪いことを見いだした。さらに他施設(国立がん研究センター)の症例を用いてValidationを行い、ECT2の増幅や発現亢進が予後とよく相関する事を確証した。 (Cancer Science, Volume 105, Issue 4 Pages April cover - April cover, i - iii, 363 - 498, April 2014) ECT2 (epithelial cell transforming sequence 2) はグアニンヌクレオチド交換因子をコードし、 GTP加水分解酵素であるRhoAを活性化し、細胞分裂を制御しているがん原遺伝子で、細胞分裂に関与する遺伝子である。また、PKCi-Par6複合体と結合し、Rac1を活性化し、腫瘍の浸潤や増殖に関与するという報告もある。一方で先の我々の研究ではECT2の発現と一般的な増殖マーカーであるki-67蛋白の発現が極めて良い相関を示した。この知見より、肺腺癌の初期の増殖能力の獲得にはECT2を介した増殖促進経路が重要な役割を果たしている事が推測された。
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