研究課題
神経内分泌癌(NEC)は、肺、消化管に多く発生するが、全身諸臓器に発生し、肺では喫煙者で多いことが知られている。 本研究は、全身諸臓器に発生するNECについて、肺と他臓器との相違点を明らかにする目的で、臨床病理学的背景、免疫染色による蛋白発現プロファイル、miRNA発現の網羅的解析、ISHおよび臨床予後について検索した。対象と方法:がん研で収集されたNECについて、発生年齢、性別、喫煙歴の有無、病理診断名を検索し、臨床経過を追跡した。腫瘍組織のFFPE検体を用いて、免疫染色、ISHで発現を検討した。肺および消化管発生NECで、miRNA発現解析を行った。結果:NEC症例381例を収集した。原発巣は、肺96、消化管(GI)82、胆膵14、頭頸27、婦人科33、泌尿器7を含む。年齢の平均は60歳、男性にやや多く、胃、直腸、婦人科臓器では若年発生、肺、食道、胆嚢では高齢発生の傾向があった。喫煙指数は、臓器により差があり、肺、食道、下部GIなどでは高かった。NECの診断名は多彩であった。免疫染色の結果、小細胞癌のなかには、臓器により神経内分泌、細胞分化マーカーの発現程度や増殖能が異なっていた。肺NECにおいて、ASCL1などの遺伝子発現をISHで検討したところ、タンパク発現と関連する傾向があった。miRNA発現解析の結果、低悪性度NECは高悪性度NECや腺癌とは異なる発現パターンが見られ、発生臓器を超え共通していた。臨床予後は、発生臓器によらず組織形態像、増殖能により分類する組織型との関連が確認された。考察:NECは、発生臓器によらず組織像と免疫染色を組み合わせた分類が臨床予後とも関連性があり、共通の疾患単位として分類可能である可能性が示された。しかし、臓器により臨床背景や腫瘍細胞形質が異なるものが存在しており、腫瘍発生母地や発生機序についてはさらなる検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、過去の症例381例の収集を完了し、臨床背景、予後の収集を行った。このうち肺、消化管発生症例のFFPE検体を中心に、免疫染色、ISH、miRNA発現解析を行った。タンパク発現に関しては、代表的な神経内分泌分化マーカー、細胞増殖能(Ki67)、臓器特異分化マーカーについて検索を行った。NECの臨床背景、病理組織像のものが含まれ、悪性度も様々であった。NECは、同じ診断名でも臓器により臨床背景や腫瘍細胞形質が異なるものが存在することを臨床病理学的に明らかにした。組織形態像は臨床予後と関連したが、発生臓器による違いは少なかった。組織形態と増殖能を組み合わせた分類が、臨床予後と関連することが確認され、発生臓器には依存しない傾向があった。しかし、組織像が類似していても、発現タンパクは発生臓器により異なるものがあること、悪性度により神経内分泌マーカーの発現程度が異なることも同時に認められ、生物学的性格については、さらなる検索の必要性が認識された。遺伝子発現解析は、FFPEを用いたISHによる検索に加え、miRNA網羅的発現解析を行った。miRNAはmRNAに比較して、FFPE検体での保存が良好であり、FFPE検体を用いた解析が可能であることが確認された。鑑別に有用な候補遺伝子を解析し、検出方法を検討中である。
症例の収集は完了し、今後はこれまでに集積された症例について、臨床背景の解析、予後の検討はほぼ終了した。これまでの研究結果で、NECの組織形態像と細胞増殖能を組み合わせた分類が、臓器を超えて予後と関連することが示されたが、さらに詳細に形態像と発現分子の関連について、検索を進める。免疫染色、ISHによる検討およびmiRNA発現解析について、症例数を増やした検索を推進し、鑑別診断として重要な低分化癌、未分化癌を比較対象として、これまで検索したタンパク、分子の発現の検索と、鑑別診断、予後予測における有用性について評価を進める。免疫染色、ISHでは、新規神経内分泌マーカーとしてASCL1, N cadherinを検討したが、生物学的性格を検討する目的で、cancer stem cell marker関連因子 (CD133, SOX2, SOX10, PAX3, PAX5など)の発現を検索する。miRNA発現解析について、FFPE検体を用いた検索を推進し、鑑別診断で問題となる対象症例を増やし、比較検討する。この中で、鑑別に有望な候補分子について、RT-PCR, ISHでの検討を行い、発現レベルの検証と、適切な検出方法について検索する。
1.これまでに収集したNEC症例の、免疫染色結果と組織学的特徴、臨床予後について、統計学的に解析し、鑑別診断に有用な基準の確立と指標となるマーカー抽出を行う。2。免疫染色、ISHについて、昨年度までに確立した方法を用いて、検索の終了していない症例および鑑別診断の対象症例を増やして検索を進める。3.FFPEを用いたmiRNA発現解析が有用である可能性が示されたため、検索対象症例を増やし、発現解析、RT-PCR, ISH法で検索を進める。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (17件)
BMC Cancer
巻: 13 ページ: 8
10.1186/1471-2407-13-8
J Clin Ultrasound
巻: Epub ahead of print ページ: Epub ahead of p
10.1002/jcu.21997. [Epub ahead of print]
Surg Today
巻: 43 ページ: 632-637
10.1007/s00595-012-0362-y
コンセンサス 癌治療
巻: 11 ページ: 146-150
Mod Pathol
巻: 25 ページ: 1574-1583
10.1038/modpathol.2012.106
病理と臨床
巻: 30 ページ: 179-185
臨床整形外科
巻: 47 ページ: 685-690