研究課題
我々は、大腸癌、膵臓癌の糖脂質の詳細な構造解析を行った結果、ルイス型血液型が陰性の人に特異的に発現する癌特異的糖鎖抗原Sialyl Type1H(ST1H)の存在を発見した。本研究の目的は、ST1Hを特異的に認識する単クローン抗体を作成し、ヒト血清でのST1H抗原量を測定するELISA系を構築し、腫瘍マーカーとしての有用性を評価することである。そこで初年度はST1Hを特異的に認識する単クローン抗体の作成を試みた。糖脂質ST1Hを含む糖鎖抗原はリポソーム法で作成し、Balb/cマウスに免疫した。1回の免疫につき35microgramのST1Hを使用した。1週間間隔で、3-5度の免疫後、マウスより脾細胞を調整し、PEG法を用いてミエローマ細胞と融合させた。ミエローマ細胞はP3-X63Ag8.653を用いた。HAT培地で培養し、10日後にコロニーを確認し、培養上清をスクリーニングに供した。スクリーニング法はELISA法を用いた。具体的には合成した糖脂質を20ng/wellで96穴プレートに固相化した。Negative controlとしてST1Hと異性体であるST2H, Sialyl Lex, Sialyl Leaをプレートに固相化したものも作成した。培養上清を加えて反応後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスImmunoglobulinを反応させ、TMB ペルオキシダーゼ発色基質キットを用いて発色させた。約3000クローンのスクリーニングが終了した。ELISAにてST1Hを特異的に認識するが、他の異性体ST2H, Sialyl Lex, Sialyl Leaをほとんど認識しない単クローン抗体を11種類を得た。そのうちの9クローンがIgGで2クローンがIgMであった。今後はこれらのクローンを免疫組織学法などを用いてその特性をさらに検討する必要がある。
2: おおむね順調に進展している
今年度の実施計画は、ST1Hを特異的に認識する単クローン抗体の作成であった。実施計画どおりに、合成したST1Hをマウスに免疫し、3000を超えるハイブリドーマを作成した。ELISAでスクリーニングした結果、11種類の単クローン抗体を得た。当初の目的は達成できたものと考える。またこれらの単クローン抗体はELISAにおいて、ST1Hは認識するが、他の異性体(ST2H, SLex, Slea)は全く認識しないため、特異性が高いと思われる。
得られた11種類の特性を精査する必要がある。これらはELISA系においてはST1Hを特異的に認識するが、生体内の実際のST1Hを認識するか否かは不明である。そこで、得られた11種類の単クローン抗体を精製し、実験に供する。そのため、ハイブリドーマのマウス腹腔内投与、あるいは大量培養などの方法により、抗体を大量産生させる。その後、ptotein Gカラム(IgG)あるいはゲルろ過法(IgM)などを用いて抗体を精製する。その抗体を用いて、ST1Hが発現している大腸癌の組織を免疫染色し、生体内のST1Hに反応するか否かを検討する。生体内のST1Hに反応する場合は、血清のELISA系の確立を目指す。
消耗品として、試薬類、チューブ、プレート類など、100万円程度予定している。備品としては、抗体などをストックするフリーザーが不足している為、フリーザー(SANYO MDF-U538D)45万円の購入を予定している。また、成果を学会、論文で発表する為、旅費10万円程度、論文投稿費用など10万円程度を予定している。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
PLoS One
巻: 7 ページ: e31234S
Int. J. Cancer
巻: 129 ページ: 1838-1847
10.1002/ijc.25860
Glycoconj. J
巻: 28 ページ: 183-196
10.1007/s10719-011-9333-6