研究課題
我々は、大腸癌、膵臓癌の糖脂質の詳細な構造解析を行った結果、ルイス型血液型が陰性の人に特異的に発現する癌特異的糖鎖抗原Sialyl Type1H(ST1H)の存在を発見した。本研究の目的は、ST1Hを特異的に認識する単クローン抗体を作成し、ヒト血清でのST1H抗原量を測定するELISA系を構築し、腫瘍マーカーとしての有用性を評価することである。昨年度は合成した糖脂質ST1Hをマウス免疫し、定法に従ってハイブリドーマを得た。ELISA法を用いてスクリーニングを行い、ST1Hを特異的に認識するが、他の異性体ST2H, Sialyl Lex, Sialyl Leaをほとんど認識しない単クローン抗体を11種類を得た。そのうちの9クローンがIgGで2クローンがIgMであった。今年度は、免疫組織化学を用いて、これらのクローンをさらに検討した。サンプルには、ST1Hの発現が確認されているルイス型陰性の大腸癌組織、正常大腸組織を用いた。これらの凍結切片を作成し、アセトンあるいは、4%パラフォルムアルデヒドなどで固定後、11種類のハイブリドーマの上清と反応させ、通常のABC法にて発色させた。免疫染色のコントロールとしてSLeA抗体を用いた。 SLea抗体は、ルイス陽性(Le+)の患者の大腸癌で陽性シグナルを認めるものの、ルイス陰性(Le-)の患者の大腸癌では、陽性シグナルが観察されなかった。このことは、染色方法に問題がないことを示す。一方、ST1Hのモノクローナル抗体である、23D11は、本来なら、ルイス陰性(Le-)の患者の大腸癌で陽性シグナルが観察されるはずであるが、固定法などをいろいろ検討したが、陽性シグナルは観察されなかった。23D11以外の10種類の抗体も、同様であった。
2: おおむね順調に進展している
今年度の実施計画は、出来上がった単クローン抗体の性状を詳細に検討することであった。昨年度の作成された単クローン抗体11種類の性状を詳細に解析した。ELISAの系では、11クローンすべてにおいて、ST1Hは認識するが、他の異性体(ST2H, SLex, SLea)は全く認識しないため、特異性が高いと思われた。しかし、免疫組織化学法で、検討すると、ST1Hの発現が確認されている大腸癌において、その発現を検出することが出来なかった。固定法などいろいろと検討したが、同様であった。実施計画に沿った検討は十分実施したと判断する。
昨年度の得られた11種類の抗ST1H単クローン抗体は、合成したST1H糖脂質を免疫原に用いた。当然であるが、ELISAでは、この合成ST1Hを特異的に認識する抗体は得られた。しかし、実際の組織では、免疫組織化学法で検出すことができなかった。今後は、免疫原を変更して、再度、ST1Hに対する単クローン抗体の作成を試みる。具体的には、免疫原に合成ST1Hを用いるのではなくST1Hが発現している大腸癌細胞を用いる。その細胞をアジュバントと混合させ、マウスに免疫する。合成ST1Hは、抗体のELISAでのスクリーニングに使用する。
消耗品として、試薬類、チューブ、プレート類など、100万円程度予定している。備品としては、抗体などをストックするフリーザーが不足している為、フリーザー(SANYO MDF-U538D)45万円の購入を予定している。また、成果を学会、論文で発表する為、旅費10万円程度、論文投稿費用など10万円程度を予定している。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件)
Cancer Sci
巻: 104(2) ページ: 238-244
10.1111/cas.12063
J Proteome Res
巻: 11(8) ページ: 4201-4210
10.1021/pr300322q
巻: 11(5) ページ: 2798-2806
10.1021/pr201154k.
巻: 11(11), ページ: 5311-5322
10.1021/pr3005474