研究課題/領域番号 |
23501306
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
笠原 寿郎 金沢大学, 大学病院, 講師 (30272967)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 肺癌 / 分子標的治療 / cMet / Topoisomerase I |
研究概要 |
肺癌の治療は、近年の分子生物学の進歩と大規模臨床試験により分子標的が同定され、細分化されるようになってきた。我々は上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR-TKI)に関して注目し研究してきた。その中で増殖因子受容体であり、かつEGFR-TKI の耐性因子として重要なcMetに注目している。またDNAトポイソメラーゼI(TopoI)はDNA複製に必要な酵素であり、カンプトセシン、イリノテカンの標的酵素である。我々はcMetとTopoIの関連に注目している。ゲフィチニブ耐性でcMet蛋白高発現の肺癌株PC-9/Metと親株であるPC-9を用いた検討の結果からPC-9/Metにおいて、Met過剰発現、リン酸化が下流の情報伝達系を介してTopoIの発現を誘導したことが示唆された。今年度は細胞株を用いた実験で、cMetの過剰発現が見られる細胞株(EBC-1, H441)、cMetの発現が低い細胞株(A549, H2228)を用いた。この4種とPC-9及びPC-9/Metを含む6種類の細胞株でWestern blotで検討した結果、cMet蛋白発現およびMetのリン酸化(以下pMet)の発現は相関した。またTopoI蛋白発現とcMet、pMetの間にも関連性がみられた。現在HGFによるcMetの刺激、Metに対するsiRNAによるMet蛋白発現抑制のTopo I蛋白発現に及ぼす影響について検討を加えており、HGFについては良好な結果を得ている。小細胞肺癌の腫瘍組織を用いて、cMet蛋白発現、pMetを解析した。現在中間解析の状態であるが、小細胞肺癌においてはcMetとpMetの間に相関がみられず、症例数を増やして検討中である。Topo Iについても現在染色中である。小細胞肺癌症例については臨床情報との画対比は現在進行中であり、cMet、pMet、Topo Iの臨床的重要性が明らかとなる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞株を用いた実験において、HGFによるMet刺激あるいはsiRNAを用いたMet発現抑制がTopoI発現に及ぼす影響について、PC-9及びPC-9/Metでは十分に確認し、論文化した(MET increases the sensitivity of gefitinib-resistant cells to SN-38, an active metabolite of irinotecan, by up-regulating the topoisomerase I activity. accepted in Journal of Thoracic Oncology)。現在上記の4種類を加えた6種類の細胞株でHGF刺激、siRNAによる発現抑制のTopoIに及ぼす影響を確認している。一方で肺癌においては重要な情報伝達系である、EFGRの刺激、あるいは発現抑制に対してはTopoI発現は影響されなかった。これらの実験の中でPC-9およびPC-9/MetにおいてはAKT、リン酸化AKT、Erk,リン酸化Erkを解析終了し、MetおよびTopoIにおける情報伝達とは関連がなさそうである。臨床検体は小細胞肺癌の症例から提供いただくこととした。非小細胞肺癌の腫瘍検体はすでにEGFR遺伝子変異解析など臨床上用いられるべき用途が多く、この先も患者のために使われる可能性が高いこと、小細胞肺癌においてはまだこのようなバイオマーカーが開発されておらず、現状では用いられやすい、イリノテカンを用いた化学療法を行ったのは小細胞肺癌に多い、などの理由から選択した。小細胞肺癌66例の腫瘍検体を用いて解析を行った。まだ中間の状態で順次増加する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
cMet下流の情報伝達系の変化の解析現在までの知見では細胞膜に存在するcMetと核内のTopoIをつなぐ情報伝達については知見が得られていない。次の検討としてcMetとTopoIの間をつなぐ解析を主としてPC-9とPC-9/Metを用いて行う。現在までの知見ではcMetの下流のシグナルとして、(1)PI3K-AKT、(2)Ras-Raf-MAPK、(3)SRCおよびβ-cateninである。現時点での我々の結果ではPC-9とPC-9/Metの間には、AKTおよびERKの蛋白発現・リン酸化には差が見られていない。今後の検討では上記(1)-(3)についてそれぞれ蛋白発現とリン酸化について検討する。cMetについてはアダプター蛋白の研究が行われておりその中心的なものとしてGRB2 (growth-factor-receptor-bound protein2), GAB1(GRB2-associated binder), phospholipase C-γ, STAT3(signal transducer and activator of transcription 3)などが知られておりこれらもあわせ解析する。小細胞肺癌腫瘍組織についてはもっとも重要なTopoIの免疫染色を進める。TopoI については入手可能な抗体の種類が少ないが少なくとも2種類以上の抗体を用いて実験結果の確認を取る予定である。症例数は100前後まで増加する見込みである。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主に細胞培養の費用、蛋白解析のための抗体、免疫染色のための費用に用いる。cMet、pMet、TopoIのWestern blotは本研究の中核であり、細胞培養においてデータを確認することが必須であると考えられるため、複数回、また複数の抗体を用いて確認する。また必要に応じRT-PCRも追加する可能性がある。現在までの成果については平成24年度秋に予定されている学会並びに25年度春の学会で発表予定である。23年度に若干の余剰金が生じたが、効率的な予算執行により端数が生じ未使用額となったものである。
|