研究課題/領域番号 |
23501306
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
笠原 寿郎 金沢大学, 医学系, 准教授 (30272967)
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キーワード | 肺癌 / 分子標的治療 / cMet / Toposioemrase I |
研究概要 |
肺癌の治療は、近年の分子生物学の進歩と大規模臨床試験により分子標的が同定され、細分化されるようになってきた。我々は増殖因子受容体であり、かつEGFR-TKI の耐性因子として重要なcMetに注目している。またDNAトポイソメラーゼI(TopoI)はDNA複製に必要で、イリノテカンの標的酵素である。 我々はcMetとTopoIの関連に注目している。ゲフィチニブ耐性でcMet蛋白高発現の肺癌株PC-9/Metと親株であるPC-9を用いた検討からPC-9/Metでは、Met過剰発現、リン酸化が下流の情報伝達系を介してTopoIの発現を誘導したことが示された。cMetの過剰発現細胞株(EBC-1, H441)、cMet低発現細胞株(A549, H2228)、PC-9及びPC-9/Metの6種類の細胞株でWestern blotで検討した結果、cMet蛋白発現およびMetのリン酸化(以下pMet)の発現は相関した。またTopoI蛋白発現とcMet、pMetの間にも関連性がみられた。ToposiomeraseI阻害剤であるイリノテカンの活性代謝物SN38に対する感受性はTopoIの蛋白発現量と相関し、またcMet蛋白発現と逆相関を示した(論文作成中)。 小細胞肺癌72例の腫瘍組織を用いて、cMet、pMet、TopoIを免疫組織学的に解析した。 TopoIの蛋白発現とpMetの間に有意な相関が認められた。これは細胞実験における治験を裏打ちするものと考えられる。またcMet蛋白発現は小細胞肺癌における独立した予後因子であることも明らかとなった。TopoIとイリノテカンに対する効果の間には関連がみられなかった。これは症例数が少ないためであろうと考えられる。 本研究から増殖因子受容体cMetがTopoIの発現を調節している可能性が強く示唆され、今後の治療戦略構築に重要な知見をもたらすと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① In vitroの実験系 In vitroでPC-9及びPC-9/MetではHGFによるMetの活性化によりTopoI蛋白発現が亢進し、siRNAを用いたMet発現抑制でTopoI発現が低下することを確認した。上記の4細胞(EBC-1, H441, A549, H2228)cMet蛋白発現とTopoIの蛋白発現の間に正の相関があることを見出した。さらにTopoI阻害剤であるSN38に対する薬剤感受性とTopoI発現の実験では、SN38高感受性ではTopoI発現が高く、またcMet発現していることが示された(未発表データ)。siRNAを用いMet蛋白を阻害した際のTopoI発現は低下したものとしなかったものがあり、さらに検討が必要と考えられる。 ②臨床検体を用いた解析:金沢大学附属病院で治療を受けた小細胞肺癌症例78例から同意を得た上で、腫瘍検体を用いてcMet, pMet, TopoIを免疫組織学的に解析した。症例の内訳は以下のごとくである。男性/女性:62/16 年齢:43-91歳 performance status 0-1/2-4:67/11 限局型/進展型:44/33。検討した蛋白の過剰発現はcMet 37.7%、pMet 29.3%、TopoI 51.3%で認めた。TopoIの過剰発現は無増悪生存期間と関連し、cMetの過剰発現は化学療法に対する反応性、奏効機関とは関連しなかったが、独立した予後不良因子であった。一方でcMetはTopoI発現とは相関しなかったものの、pMetとTopoIの発現は有意に相関した(p=0.023)。これらの結果から臨床検体においてもMet蛋白とTopoIは関連していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの知見では細胞膜に存在するcMetと核内のTopoIをつなぐ情報伝達については知見が得られていない。次の検討としてcMetとTopoIの間をつなぐ解析を主としてPC-9とPC-9/Metを用いて行う。現在までの知見ではcMetの下流のシグナルとして、①PI3K-AKT、②Ras-Raf-MAPK、③SRCおよびβ-cateninである。現時点での我々の結果ではPC-9とPC-9/Metの間には、AKTおよびERKの蛋白発現・リン酸化には差が見られていない。今後の検討では上記①-③についてそれぞれ蛋白発現とリン酸化について検討する。cMetについてはアダプター蛋白の研究が行われておりその中心的なものとしてGRB2 (growth-factor-receptor-bound protein2), GAB1(GRB2-associated b inder), phospholipase C-γ, STAT3(signal transducer and activator of transcription 3)などが知られておりこれらもあわせ解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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