研究概要 |
肺癌の治療は、近年の分子生物学の進歩と大規模臨床試験により分子標的が同定され、細分化されるようになってきた。我々は増殖因子受容体であり、かつEGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対する薬剤耐性因子として重要なcMetに注目している。またDNAトポイソメラーゼI(TopoI)はDNA複製に必要で、イリノテカンの標的酵素である。我々はこの二つの関連に注目している。ゲフィチニブ耐性でcMet蛋白高発現の肺癌株PC-9/Metと親株であるPC-9を用いた検討からPC-9/Metでは、Met過剰発現、リン酸化が下流の情報伝達系を介してTopoIの発現を誘導したことを示した。cMetの過剰発現細胞株(EBC-1, H441)、cMet低発現細胞株(A549, H2228)、PC-9及びPC-9/Metを含む10種類の細胞株でWestern blotで検討した結果、cMet蛋白発現およびMetのリン酸化(以下pMet)の発現は相関した。またイリノテカンの活性代謝産物であるSN38に対する薬剤感受性はcMet蛋白発現と相関が見られ、cMet過剰発現腫瘍に対してTopoI阻害剤の有用性が示唆される結果を得た。 小細胞肺癌72例の腫瘍組織を用いて、cMet、pMet、TopoIを免疫組織学的に解析した。 TopoIの蛋白発現とpMetの間に有意な相関が認められた。これは細胞実験における治験を裏打ちするものと考えられる。またcMet蛋白発現は小細胞肺癌における独立した予後因子であることも明らかとなった。TopoIとイリノテカンに対する効果の間には関連がみられなかった。これは症例数が少ないためであろうと考えられる。 本研究から増殖因子受容体cMetがTopoIの発現を調節している可能性が強く示唆され、今後の治療戦略構築に重要な知見をもたらす
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