研究課題
【目的】非小細胞肺癌 (NSCLC) の癌性胸膜炎をモデルとする分子標的治療薬の薬力学評価系を確立すること。【方法】NSCLCの癌性胸水および血液検体を用いて、分子標的治療における経時的な生体および腫瘍細胞の変化を解析し(薬力学)、同時に血液および胸水の薬物動態を評価する[PHarmacokinetic/PHarmacodynamic Assessment on Malignant Effusions (PHAME法)と命名]。18F-fluorodeoxyglucose-positron emission tomography (FDG-PET)を用いたイメージングによっても薬力学的検討を行う。【進捗状況と結果】癌性胸膜炎を合併したNSCLC患者を対象として上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤(ETKI) ゲフィチニブおよびエルロチニブの薬物動態および薬力学的検討を行ってきた。これまでに[1] 癌性胸膜炎がETKIの薬物動態・薬力学的評価系として優れていること報告し、メタボローム解析によって癌性胸水および血液中の代謝産物がETKI治療のバイオマーカーについて検討を行った。ETKIの主要な副作用である皮疹が血中代謝産物と関連していることが示唆され、原因となっている候補タンパクの絞り込みを行った。[2] 進行NSCLC患者を対象に、従来の標準的殺細胞化学療法またはETKI治療時の薬力学評価をFDG-PETを用いたバイオイメージングによって行った。ETKIにおいて早期からFDG集積低下が認められ、腫瘍縮小効果、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間とよく相関することを報告した。[3] NSCLCに高発現するサイトケラチン(CK)8を薬力学マーカーとして評価し、CK8が細胞浸潤を負に制御する一方で、血中CK8は予後不良因子であり、血中CK8は腫瘍量を反映することを報告した。
2: おおむね順調に進展している
ETKIとしてゲフィチニブを用いた研究は予定された治療・観察期間を終了し、臨床解析および主要な基礎解析を終えた。癌性胸水および血液検体でのメタボローム解析結果を加えて論文を執筆中である。ゲフィチニブの血中・胸水中薬物動態と奏効・PFSの関連では、血中・胸水中ともに腫瘍縮小よりもPFSとの関連がより強く見られた。特に治療効果が持続したPFS延長例において有意に胸水中ゲフィチニブの最大濃度(Cmax)が高く薬物濃度曲線下面積(AUC)が大きいことが明らかとなった。ゲフィチニブの胸水中への移行が良好な症例において癌性胸膜炎合併肺癌に対する治療効果が大きいものと思われた。血漿のメタボローム解析からはゲフィチニブの主要な副作用である皮疹とindoxyl sulfolic acidの関連が認められ、血液および胸水代謝物が副作用のバイオマーカーとなる可能性が示唆された。従来の標準的殺細胞化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル併用療法[CP])またはETKIゲフィチニブ(G)による治療を受けた進行NSCLCにおいてFDG-PETを治療前、治療開始48時間後、4週間後に実施し薬力学的評価を行った。殺細胞性CPよりも分子標的G療法において、早期(治療開始48時間後)のFDG-PETにおけるFDG集積低下がよりよく腫瘍縮小効果、腫瘍再増大までの期間(無増悪生存期間)、全生存期間と相関することが明らかとなった[Kanazu, Clin Lung Cancer 2014]。非小細胞肺癌に高発現するCK8の薬力学マーカーとしての有用性を報告した。CK8が細胞浸潤を負に制御する一方で、血中CK8は予後不良因子であり、血中CK8は腫瘍量を反映する[Kubo, Cytokeratins, Tools in Oncology 2012]。
悪性体腔液を用いた薬物動態・薬力学評価(PHAME法)の2次解析となるメタボローム解析の結果を2013年度で論文発表予定であったが、新たなバイオマーカー候補物質が同定され解析に時間を要した。ゲフィチニブによる皮疹とindoxyl sulfolic acidの関連が認められ、血液および胸水代謝物が副作用のバイオマーカーとなる可能性が示唆された。現在、解析が終了し論文執筆中である。PHAME法によるエルロチニブ評価試験における解析(血液・胸水検体を用いた薬物動態、各種薬力学検討)を実施予定であったが、症例集積の遅れから解析が遅れている。エルロチニブ試験は2014年4月で症例集積期間が終了したため、現在までの登録症例で解析を行う。NSCLCの新たなドライバー変異としてALK融合遺伝子が同定され、ALK融合遺伝子陽性の肺癌に対してALK選択的阻害剤クリゾチニブが保険適応となった。ALK陽性肺癌はNSCLCの5%以下と少数ではあるが、クリゾチニブに対してもPHAME法による評価を行う。
悪性体腔液を用いた薬物動態・薬力学評価(PHAME法)の2次解析となるメタボローム解析の結果を今年度で論文発表予定であったが、新たなバイオマーカー候補物質が同定され解析に時間を要した。現在、解析がほぼ終了し論文執筆中である。PHAME法によるエルロチニブ評価試験における解析(血液・胸水検体を用いた薬物動態、各種薬力学検討)を実施予定であったが、症例集積の遅れから時間を要している。PHAME法メタボローム解析の国際学会発表と論文発表を2014年度に行う。症例集積の遅れていたPHAME法エルロチニブ評価試験については2014年4月で症例集積期間が終了となるため予定していた解析を実施する。エルロチニブ試験においては症例集積の遅れから解析開始までに長時間を要した。この反省からクリゾチニブPHAME法では最低1例からでも解析を検討する。現在までの未使用額はこれらの経費に充てることとしたい。
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