研究課題
高齢者の身体機能には大きな個人差があり、認知症や脆弱性など老年症候群と呼ばれる症状・徴候が高頻度に見られ、一律に同じ治療を行うことができない。悪性リンパ腫は化学療法で治癒が期待できる悪性腫瘍であるが、高齢者では副作用のため抗がん薬の減量や治療間隔の延長を余儀なくされることが多い。高齢リンパ腫患者を対象に治療高度と長期予後の関係を後方視的に解析すると、治療強度を予定の75%以上に維持できた群では有意に生存期間が長かった(第10回日本臨床腫瘍学会で報告)。現在、診断時にリンパ腫患者の身体的、精神的ならびに社会的機能を調べ、長期予後との関係を調べる前向き研究を実施している。臓器機能が低下した高齢がん患者に対して若年者と同様の化学療法を行うと、治療関連毒性が強く出現する危険がある。しかし一律に治療量を減量すると治療効果が低下する。高齢者に対する適正な治療量を調べることを目的に、抗がん薬の薬物の体内動態を測定する臨床試験を行っている。高齢者に多い多発性骨髄腫に対し、ボルテゾミブにドキソルビシン、デキサメタゾンを併用すると、奏効率が高くなるのみならず奏効持続期間が延長することを明らかにした(論文投稿中)。しかし高率に末梢性感覚ニューロパチーを生じQOLが低下した。ボルテゾミブは静脈注射薬として開発されたが、皮下注射すると神経毒性が軽減するとの報告がある。その安全性を確認するパイロット研究を行ったところ、注射部位反応は一過性で重症化せず、grade 2以上の末梢性感覚ニューロパチーは起こらなかった(第10回日本臨床腫瘍学会で報告)。現在、ボルテゾミブ皮下注の有効性を確認する多施設共同臨床第II相試験を実施している。がん患者および家族のグループミーティングを毎月開催し、互いに悩みや問題点を相談して解決できるように支援活動を継続して行っている。
2: おおむね順調に進展している
各種の臨床試験実施計画書を福岡大学病院の臨床研究審査委員会に提出し、承認を得た上で実際に臨床試験を実施してる。高齢者を対象とした臨床試験は、全身状態が不良で化学療法の適応とならない、あるいは認知障害のため同意の取得が困難など、若年者に比べて症例登録が難しく、海外からも少数しか報告されていない。症例収集に時間を要する場合があるが、やむを得ないと考えられる。継続して症例収集は行い、試験を完遂することを目指している。
悪性リンパ腫患者を対象に、高齢者機能評価を行った長期予後との関係を調べる前向き研究は、2013年8月に開催される第11回日本臨床腫瘍学会で報告する。この結果をもとに、多施設共同臨床試験を実施する予定である。高齢者や臓器機能障害のあるがん患者に対するフッ化ピリミジン療法、高用量シタラビン療法の薬物動態を測定する臨床試験を継続し、結果を報告する。骨髄腫は症状が出現するまで待って治療を開始することが標準治療であった。ボルテゾミブをはじめ新規薬剤が登場し、骨髄腫の長期予後は著しく改善しているが、早期(症状が出現する前)に治療を開始することで生存期間が延長する可能性がある。無症候性骨髄腫に対する早期治療介入の有効性を確認する臨床試験を実施する。がん患者および家族のグループミーティングを継続する。
多施設共同臨床試験を実施した場合のデータ処理費薬物動態を測定する場合の機器使用費、消耗品費がん薬物療法に関する基礎研究費研究結果の発表、他の研究者との意見交換を行うための旅費
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