研究課題
前立腺がんでは高い腫瘍形成能を有する腫瘍源細胞が存在し、再発や治療抵抗性に関わることが示唆されている。しかしその性状については十分に明らかでない。本研究では、前立腺がんのがん化と関連する遺伝子産物や、化合物/RNAiスクリーニングにより同定された因子による腫瘍源細胞の生存維持機構の解明を目的とした。我々はまず、前立腺がん細胞株を用い、腫瘍源細胞の分離を試みた。その結果、CD151/CD166/TRA1-60陽性分画は腫瘍形成能が顕著であり、またスフェア培養での陽性細胞の濃縮も明確であった。また、臨床前立腺がん組織より、がん細胞の初代培養を行い、その細胞集団中に上述のマーカー陽性細胞が数%存在することを確認した。さらに遺伝子発現解析および機能スクリーニングによる統合的解析を進め、前立腺がん幹細胞生存因子PCSC-1(prostate cancer stem cell factor 1と仮称)を見出した。PCSC-1は、腫瘍源細胞マーカー陽性細胞で選択的に発現が高く、その発現抑制はマーカー陽性細胞を選択的に減少させた。またPCSC-1の発現を抑制すると、スフェア増殖が選択的に抑制され、ゼノグラフトでの腫瘍形成能を著しく低下した。逆にPCSC-1の過剰発現は、これらを亢進させた。臨床癌がんでの発現をみるとは、PCSC-1は特に前立腺がんで選択的発現を示し、正常組織と比べ発現の顕著な亢進が認められた。以上より、PCSC-1は前立腺がんのがん化と密接に関わり、とくに、腫瘍源細胞の生存維持に関わることがわかった。我々はさらに、PCSC-1による生存シグナルを明らかにするため、遺伝子発現解析を行い、PCSC-1の機能と関連するトランスクリプトームを明らかにした。本研究で見出された前立腺がんの新しい生存因子は、治療薬創製のための新しい標的分子となる可能性がある。
すべて 2013
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Cancer Science
巻: 104 ページ: 360-368
10.1111/cas.12071