研究課題
固形癌は癌細胞だけでなく周辺の間質が混在する形で成り立っている。この間質細胞と癌細胞の分泌因子や接着因子を介した癌―間質相互作用は、癌の増殖を促進するだけでなく、逆に抑制させることも明らかにされつつあり、その重要性が注目されている。我々はこの癌―間質相互作用を制御することで癌を抑制する新しいタイプの癌治療法および抗癌剤の開発を目指した創薬研究の基礎を確立することを目的として、本研究では様々な癌種を用いたスクリーニング系を構築して癌―間質相互作用を調節する低分子化合物を数多く見出し、その作用機構および抗癌活性を検討する。初年度である平成23年度では、膵癌、乳癌、大腸癌と各臓器由来の間質細胞を用いた新たな共培養スクリーニング系を構築し、既に構築した前立腺癌、胃癌、肺癌の共培養スクリーニング系も含め全6系の実験系でスクリーニングを実施した。その結果、胃癌の共培養スクリーニング系で新規化合物を発見した。平成24年度では、平成23年度にスタートした全6系の実験系でのスクリーニングを継続し、目的とする活性物質の探索を行うとともに、発見した新規化合物について更に検討を加えた。新規化合物は放線菌Nocardia sp. ML96-86F2株が産生する化合物であり、その活性からintervenolinと名付けた。全6系のスクリーニングで再評価した結果、intervenolinは胃癌に加えて大腸癌に対しても間質との共培養で癌細胞の増殖を強く阻害する活性を示した。また、放線菌の大量培養から評価サンプルを精製し、ヌードマウスにヒト胃癌細胞および大腸癌細胞を移植して抗癌活性を検討した結果、動物実験でも有意に抗癌活性を示すことが分かった。さらに、抗菌活性を検討した結果、ピロリ菌に対して選択的な抗菌活性も示すことが分かった。これらの結果を踏まえて、intervenolinの特許を出願した。
1: 当初の計画以上に進展している
新規化合物intervenolinを放線菌培養液から発見し、その作用を平成23年度に構築した新たな実験系も含めて解析を行い、胃癌に加えて大腸癌に対しても有効であることがin vitroで示された。そして、実際にヌードマウスを用いた動物実験においてintervenolinが抗癌活性を有することが分かったことは極めて重要な成果である。今後、intervenolinの作用機構の解析を進め、抗癌剤リード化合物となることが期待される。
引き続き、新しい活性物質の探索を継続するとともに、本研究から見出した新規化合物intervenolinの作用機構の解析および高次モデルでの動物実験で抗癌活性を検討し、抗癌剤リード化合物としての可能性を評価する。具体的には、間質細胞と癌細胞の共培養系で起きている現象の解析を中心に行うとともに、動物の高次モデルとしてヒト胃癌のマウス胃壁およびヒト大腸癌のマウス大腸壁への同所移植モデルを利用してintervenolinの抗癌活性を評価する。
スクリーニングの継続と得られた活性物質の精製、および新規化合物intervenolinの作用機構の解析と高次動物モデルでの抗癌活性の評価を行う。そのため、研究費は細胞培養用の試薬とプラスチック器具、生化学試薬、実験動物などの消耗品にあてる計画である。
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