研究課題/領域番号 |
23501324
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
増田 園子 北海道医療大学, 薬学部, 教授 (90157206)
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研究分担者 |
田中 卓二 岐阜大学, 医学部, 非常勤講師 (40126743)
小山内 誠 高知大学, 医歯学系, 准教授 (60381266)
寺崎 将 北海道医療大学, 薬学部, 講師 (10391195)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 大腸がん幹細胞 / 核内受容体 / ビタミンD / フコキサンチノール / がん化学予防 / VDR / PPARG |
研究概要 |
平成23年度本研究課題「大腸がん予防作用を示す新しい共役因子並びに標的因子を探索する」の研究実績の概要は以下のとおりである。 大腸がん増殖抑制に効果のある新規活性成分を探索し、新規核内受容体とその転写調節機能を解明するための基礎的研究を行った。日常摂取する食品成分より、活性型ビタミンD3 (1,25D)、カロテノイド2種、アブラナ科植物2種、薬用植物6種の機能性脂質の単独・混合添加により、ヒト大腸がん細胞 (HT-29, HCT116, DLD-1)に対し、強い増殖抑制作用とPPARγタンパク質発現を顕著に抑制することを見出した。これらの高極性脂質は構造が全く異なるが、大腸がん細胞に対して共通する分子作用機序を有し、Akt/PI3K経路及びWnt/β-Cagtenin経路を抑制し、大腸がん細胞の維持・増殖に極めて重要な核内受容体PPARγのタンパク発現を抑制した。大腸がんの予防研究では、大腸発がんの最も初期病変と考えられるACFを標的とするアプローチに加え、大腸がん幹細胞を標的とすることも急務の課題である。本研究では、大腸がん幹細胞の継代培養が可能となるスフェロイド培養に応用した。HT-29, HCT116細胞のスフェロイド形成に対し、活性型ビタミンD3,高極性キサントフィルは大腸がん幹細胞塊Colonosphere を明瞭にアポトーシス誘導し、極めて有望な大腸がん幹細胞の根絶候補脂質であることを見出した。大腸がん幹細胞は化学療法に強い耐性を示すため、複数の分子機構を同時に制御することは大腸がん幹細胞根絶の近道といえる。PPARγ発現を抑制する機能性脂質の組合せにより、大腸がん幹細胞根絶への糸口を見いだした意義は大きい。次年度以降、大腸発がんの過程で発現する核内受容体の機能を解明することにより、化学予防因子の創出に貢献できると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度本研究課題の到達目標は次の3点である。1)ビタミンD及びレチノイドを基盤とする大腸発がんとがん抑制に関わる核内受容体の機能を分子レベルで解明し、核内受容体の大腸のがん化とがん抑制における役割を明らかにする。大腸がん細胞核内受容体を網羅解析し、ビタミンD、レチノイド、キサントフィルによりPPARγが発がん抑制に極めて重要な核内受容体であることを見出した。我々が日常摂取する食品には、PPARγを正負に制御する脂質が数多く含まれ、それらの組み合わせ効果が発がんを予防している可能性がある。2)未解明の核内受容体作用の分子メカニズムを探索し、細胞増殖・分化制御因子としての意義を明確にして、がん化制御へ応用する。PPARγを標的とした脂質はPPARγを活性化して細胞死を誘導するという報告が多く、PPARγ抑制に関する研究は少ない。大腸がんにおいてPPARγは、アンタゴニストによる発現抑制によって、細胞内骨格タンパク質が変化し、基質に接着する足場が維持できず、浮遊死 (アノイキス)が起こる。見出された高極性脂質は大腸がんに対してPPARγ抑制を介してアノイキスを誘導する極めて有力な食餌性脂質であり、大腸がん化学予防が期待できる。3)大腸がん化学予防に効果が期待される薬用植物及び食品由来成分の複合的な作用機序を網羅的に解析し、がん予防を評価できるバイオマーカーを探索、発掘する。PPARγを抑制する機能性脂質の組合せによる作用機序を網羅的に解析し、見出された遺伝子Dvl2、TCF7、TCF71、TCF72、Wnt10B、SOCS3、STAT1、STAT3、JAK2、p85は、Wnt/β-Catenin, JAK/STAT, Akt/PI3K, Cell Cycle及びApoptosisのシグナル伝達経路に属し、がん予防を評価できるバイオマーカーとしての可能性が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
大腸発がん過程において、自己複製能と多分化能を有し、がん組織全体の根幹となる大腸がん幹細胞 (Colorectal cancer stem cell: CCSC) を根絶することが重要である。大腸がん幹細胞に発現する核内受容体と新しい共役因子を標的として大腸がん幹細胞の機能を調節することは、大腸発がんを抑制しうる可能性がある。平成24年度本研究課題『大腸がん化学予防における核内受容体とその標的因子の分子メカニズムの解明』は、標的因子の新しい機能と病態における役割を示し、分子標的として意義を明らかにする。 平成23年度の成果を踏まえ、網羅的な核内受容体の標的因子の同定と発がんにおける機能解析を進める。大腸がん幹細胞及び大腸がん病態モデルの系で、マイクロアレイ法により、標的遺伝子の同定を進め、ビタミンD、レチノイン酸、高極性キサントフィルなどの低分子脂溶性シグナルを介する標的因子の応答経路並びに病態における役割の解明を進める。 大腸がん幹細胞の特異的マーカータンパク質に着目し、CD44 陽性細胞、EpCAMhigh細胞をがん幹細胞としてflow cytometer (FACS)により単離する。免疫不全マウスへの移植による腫瘍形成抑制を指標に、がん幹細胞が示す薬剤耐性をTrigger/低分子脂溶性シグナルで緩和する。TriggerにはFGF及びWntを抑制する抗体・薬剤を使用し、CD44 (+)/EpCAMhigh細胞に対する核内受容体 (PPARγ、PPARα、PPARβ/δ、VDR、RXR、RAR)、Akt/PI3K及びWnt/β-Catenin経路の遺伝子・タンパク質発現を網羅解析し、大腸がん幹細胞の標的分子、標的経路、バイオマーカーを探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題の研究推進の年度であることを鑑み、研究代表者と研究分担者計4名の協力体制のもとで恒常的な研究を遂行するために、期間全体経費の30%を均等に維持し、平成24年度は総額1,100千円を計上した。 研究データの蓄積を発展させるため、年間研究経費の60%を消耗品費660千円として使用し、定期的な試薬の購入に加えて、必要な標品の購入、ラベル標識体の合成、作用機序解析のマイクロアレイ購入に充てる。このうち、遺伝子・タンパク質解析には高額な試薬が必要となるため、220千円(年間経費20%相当)を計上した。研究用試薬・標品購入と化合物分析用消耗品にそれぞれ110千円(同10%相当)を充てる。病理組織の解析実験経費及び実験動物の作成・維持管理費並びにがん予防成分を添加した特別飼料を作成する必要があるため、それぞれ110千円(同10%相当) を計上した。 研究を推進するため、実験補助人材を活用するための謝金110千円(同10%相当)を計上し、積極的な研究成果発表と十分な研究打ち合わせのための旅費220千円(同20%相当)を計上し、成果発表の印刷物作成などのその他経費110千円(同10%相当)をあわせて、平成24年度年間経費総額1,100千円とした。
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