研究課題/領域番号 |
23510001
|
研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
宮竹 史仁 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (70450319)
|
研究分担者 |
前田 高輝 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (90435941)
|
キーワード | 地球温暖化 / 堆肥化 / 一酸化二窒素 |
研究概要 |
堆肥化過程では、強力な温室効果ガスの一つである一酸化二窒素(N2O)が排出される。本研究は堆肥化過程で発生するN2Oの排出機構の解明ならびに高精度のインベントリデータの創出を図るためにN2O排出予測式の導出することが目的である。とりわけ、平成24年度においては、堆肥中の窒素形態などの化学的なパラメータがN2O排出量に及ぼす影響を明らかにすること、ならびに、このN2O排出が堆肥化初期過程において硝化または脱窒のどちらの過程で支配的なのかを検討することにより、N2O排出機構の解明を目指すことが目的であった。 本年度課題では、精密小型堆肥化試験装置を用いて、乳牛ふんまたは豚ふんを堆肥材料として実験を行い、N2O排出量を調査した。その結果、堆肥材料中の硝酸態・亜硝酸態窒素の量がN2O排出の根源となっており、堆肥材料(乳牛または豚ふん)の違いによって、N2Oの生成源が硝酸態窒素または亜硝酸態窒素のどちらかとなる可能性を示した。また、乳牛ふんの堆肥化初期過程において、MPN法による硝化・脱窒菌ならびにアンモニア態、亜硝酸態、硝酸態窒素の量を堆肥化の温度上昇ごとに調査した結果、中温域で発生するN2Oは硝酸態窒素の脱窒過程で生成される可能性が高く、高温域では中温域の脱窒過程で生成される代謝副産物がN2O生成源の基質となる可能性が示された。しかしながら、高温域(55-70℃)では一般的な脱窒菌の至適温度(30℃)を超えており、かつ、高温域では脱窒菌の栄養源である硝酸態窒素が消失していたことから、通常の脱窒菌とは異なる反応を示し、約60℃を至適温度とし、且つ非常に高いN2O生成能力を有する新たな微生物叢の存在が示唆された。加えて、平成25年度に行う予定であった実証規模堆肥舎におけるN2O排出量の測定を実施し、N2O排出予測式の検証データを確保した。 以上が平成24年度の研究実績概要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画では、具体的に(1)化学的パラメータによる堆肥化条件とN2O排出特性の関係性の検討、(2)N2O排出における微生物の硝化・脱窒ポテンシャルを検討すること、の2点であった。平成24年度は、この双方の課題に取り組み、以下の結果が得られている。 (1)堆肥材料中の硝酸態または亜硝酸態窒素の量がN2O排出の大きな要因であることが明らかとなった。特に乳牛ふん材料を主原料とした場合には硝酸態窒素量がN2Oの排出源となり、豚ふん材料では亜硝酸態窒素がその源になる傾向を示した。これは堆肥材料によってN2O生成の源となる窒素源が異なることを示唆するものであった。 (2)堆肥化初期過程において、乳牛ふんを堆肥の主原料とした場合、硝酸態窒素を起源に中温域(約45-55℃)と高温域(55-70℃)でN2O排出量が増加した。硝化・脱窒菌ならびにアンモニア態、亜硝酸態、硝酸態窒素を堆肥化の推移(温度上昇)とともに追跡した結果、中温域で発生するN2Oは硝酸態窒素の脱窒過程で生成される可能性が高かった。また、高温域では中温域の脱窒過程で生成される代謝副産物がN2O生成源の基質となり、高温域の著しいN2O排出を引き起こすと思われた。しかしながら、高温域(55-70℃)では一般的な脱窒菌の至適温度(30℃)を超えており、かつ、高温域では脱窒菌の栄養源である硝酸態窒素が消失していたことから、通常の脱窒菌とは異なる反応を示した。それ故、約60℃を至適温度とし且つ非常に高いN2O生成能力を有する新たな微生物叢の存在が示唆された。 (3)加えて、平成25年度に実施予定であった実験室および実証規模での堆肥化過程におけるN2O排出量の測定を行い、N2O排出予測式の検証のためのデータを採取した。 以上の様に、平成24年度の研究計画に基づき研究が遂行されており、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究推進計画は、以下3点である。 1点目は、平成24年度でN2O排出源と考えられる堆肥材料中の亜硝酸態窒素および硝酸態窒素量とN2O排出量から、それらの相関性を明らかにする予定である。2点目は、堆肥材料中の硝酸態窒素ならびに亜硝酸態窒素の量が、高温域のN2O排出量に及ぼす影響を検討する。堆肥化過程では高温域(55℃以上)で著しいN2Oの排出が起こることがこれまでの研究から分かっており、このN2O生成メカニズムについて、さらに追求する予定である。3点目は、これまでの研究で得られたN2O排出特性からN2O排出予測式を導出し、実際の堆肥化過程で発生するN2O排出量との相関性を明らかにする予定である。 とくに、2点目のN2O排出予測式に関しては、これまでの研究成果から亜硝酸態窒素および硝酸態窒素が、他のパラメータ(例えば、通気量等)に比べて数十倍~数百倍のインパクトがあることが分かっており、それを利用したN2O排出予測式の導出がキーポイントであると考えている。 以上、最終年度である平成25年度は、これら3点の研究課題と通して、本申請課題名ともなっている「堆肥化過程からのN2O排出を支配する新規機構の解明とN2O排出予測式の導出」を遂行することを目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|