研究課題/領域番号 |
23510005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
淺原 良浩 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (10281065)
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研究分担者 |
谷水 雅治 独立行政法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, サブリーダー (20373459)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 同位体 / 海洋科学 / 環境変動 / 地球化学 |
研究概要 |
大陸から海洋に供給される鉄などの金属元素は沿岸海洋の生態系をコントロールする重要な要因の1つである。本研究では、海洋に供給される可溶性の鉄の起源解析の手法開発を目的とする。具体的には、オホーツク海をモデルフィールドとし、堆積物に含まれる鉄(Fe)の同位体とともにストロンチウム(Sr)やネオジム(Nd)など金属元素の同位体の利用を試みる。特に、Ndなどの放射壊変起源同位体は、供給源地域を特定する指標として有用性が高いことから、鉄の安定同位体の有用性の検証に利用できる。 平成23年度(初年度)は、鉄の供給源を特定する指標としてのFeの安定同位体とSr、Ndの放射起源同位体の有用性の検証を進めた。具体的には、次の3つを行った。(i)堆積物からの海水起源(可溶性)の金属元素の抽出法および化学処理法を検討した。(ii)オホーツク海に供給される金属元素の起源を識別するため、シベリアの大河川アムール川の河川水および河川懸濁物中の金属元素同位体を分析した。(iii)さらに、(i)の分析方法に基づき、シベリア大河川アムール川河口からの距離を考慮してオホーツク海の河口域、沿岸、外洋の堆積物を選定し、オホーツク海の表層堆積物中の可溶性(鉄マンガン水酸化物成分)の金属元素同位体のマッピングを進めた。 Nd同位体比分布の結果から、オホーツク海北域から南下してきた水塊に、アムール川河川水の流入する河口域の水塊が混合し、混合した水塊がサハリン沿岸を南下しつつ表層から中層へと沈み込む様子が明らかになった。鉄の安定同位体組成の分布もこの結果と一部整合的である。この水塊の挙動は、海洋観測及びモデリングによる研究より明らかになっているこの海域の水塊の動きと一致している。これらの結果は、海洋に供給される可溶性の鉄の起源解析にFeおよびNd同位体の組み合わせが有用であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した平成23年度当初の「研究実施計画」は順調に進展している。自己点検評価としては、予定していた具体的な実施内容は全体としては概ね達成しているものの、遅れている点と当初の計画以上に進展している点の両方を含んでいる。その具体的な内容は次のとおりである。(やや遅れている点) 平成23年度分の研究実施計画で当初予定していた具体的な研究内容のうち、海洋堆積物からの有機態金属元素の抽出および有機態金属元素の化学処理法の確立が年度末時点でまだ達成できていない。平成23年度当初からこの分析法の確立に取りかかり、検証のためのデータを取得しているが、現時点における分離法では、有機態成分と他の海水起源成分の分離が不完全である可能性が残されている。特に、この問題点は、ネオジムより鉄の同位体組成の精度に大きな影響を与える。平成24年度も継続してこの分析法の改良と検証を進める必要がある。(当初の計画以上に進んでいる点) 平成24年度に実施を予定していた研究内容の一部を平成23年度後半に繰り上げて開始した。具体的には、オホーツク海表層堆積物から抽出した海水起源の鉄マンガン水酸化物成分の鉄とネオジムの同位体のマッピングを開始し、成果が出始めている。その成果内容は上記の「研究実績の内容」に記載したとおりである。平成24年度は有機態成分の鉄とネオジムの同位体組成のマッピングも進める予定である。 平成23年度の「研究実施計画」の進捗状況は以上のとおりであり、現時点では、平成24年度の「研究実施計画」も当初の予定通り、十分に達成できる見通しがある。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度分の研究実施計画で当初予定していた具体的な研究内容のうち、有機態金属元素の抽出および有機態金属元素の化学処理法の確立が年度末時点でまだ未達成であり、平成24年度はまず、これらの分析法の改良を検討する。具体的には、堆積物からの酢酸抽出成分に含まれる有機態成分と炭酸塩成分の鉄とネオジムのより正確な分離を目指す。特に鉄については、これらの2成分の同位体組成に大きな差がある可能性が高く、その確認とその原因の解明が必要である。 この確立した分析法に基づき、オホーツク海表層堆積物中の有機態の鉄とネオジムの同位体組成のマッピングも進めていく。平成23年度後半から進めている、海水起源の鉄マンガン水酸化物中の鉄とネオジムのマッピングの結果との対比も行い、有機態成分中の鉄、ネオジムの同位体組成のトレーサとしての有用性を検討する。 また、平成23年度の成果報告のために平成24年度内に論文の執筆に取りかかり、投稿する予定である。特にオホーツク海表層堆積物に含まれる海水起源の鉄マンガン水酸化物のNdの同位体組成のマッピングの成果は夏頃までに国際誌に投稿する予定である。オホーツク海の鉄の同位体組成のマッピングも含めた成果については、年度内に論文を執筆し、投稿する予定である。 以上の平成24年度の研究実施計画が順調に進んだ場合、平成25年度に実施予定の「過去5000年~1万年間の海洋への金属元素供給の変遷を探るためのコア試料を用いた時間変動解析」を平成24年度中に開始することを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度分の研究実施計画で当初予定していた研究内容のうち、堆積物からの有機態金属元素の抽出および有機態金属元素の化学処理法の確立が年度末時点でまだ達成できておらず、平成23年度の平成24年度への研究費の繰越分はこの未達成の項目を実施するために必要な研究費である。 平成24年度の研究費は、オホーツク海表層堆積物から抽出した鉄マンガン水酸化物成分と有機態成分に含まれる鉄とネオジムの同位体組成のマッピングに必要な実験消耗品などの物品費と、その成果報告のための旅費等に主に使用する予定である。50万円以上の設備備品の購入予定はない。 物品費の内訳は、堆積物試料の化学前処理のための試薬類(酢酸、塩酸、硝酸、塩化ヒドロキシルアミン、メタノールなどの高純度試薬)、PFA製器具、PP製器具、ガラス器具、Sr・Nd・Fe分離用樹脂、ICP-MS用のアルゴンガス、元素分析計消耗品(錫カプセル、燃焼管)、表面電離磁場型質量分析計でのSrおよびNdの同位体比測定に必要なレニウムリボン・タンタルリボン、などの実験消耗品である。旅費の内訳は、多重検出器ICP質量分析計でのFe同位体測定のための出張旅費、研究打合せのための旅費、成果報告のための国内学会出席の旅費(日本地球化学会年会、環境化学会、など)、である。その他、成果報告のための国際誌投稿論文の英文校閲の経費を予定している。
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