研究課題/領域番号 |
23510005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
淺原 良浩 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (10281065)
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研究分担者 |
谷水 雅治 独立行政法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, サブリーダー (20373459)
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キーワード | 同位体 / 海洋科学 / 環境変動 / 地球化学 |
研究概要 |
大陸から海洋に供給される鉄などの金属元素は沿岸海洋の生態系をコントロールする重要な要因の1つである。本研究では、海洋に供給される溶存態鉄および可溶性の粒子態鉄の起源解析の手法開発を目的とする。具体的には、オホーツク海をモデルフィールドとし、堆積物に含まれる鉄 (Fe)の同位体とともにストロンチウム(Sr)やネオジム(Nd)など金属元素の同位体の利用を試みる。特に、Ndなどの放射壊変起源同位体は、供給源地域を特定する指標として実用化されていることから、鉄の安定同位体の有用性の検証に利用できる。 鉄の起源を特定する指標としてのFeの安定同位体とNdの放射起源同位体の有用性を検証するため、平成23年度(1年目)はまず、堆積物からの海水起源(可溶性)の鉄の抽出法および化学処理法の検討を中心に進めた。平成24年度(2年目)は、次の3点を行った。(i)オホ ーツク海の鉄の起源を識別するため、シベリアの大河川アムール川の河川水および懸濁物中のFe、Nd同位体分析を進めた。また、(ii)アムール川河口からの距離を考慮してオホーツク海の河口域、沿岸、外洋の堆積物および懸濁物を選定し、その可溶性鉄(鉄マンガン水酸化物成分)のFe、Nd同位体マッピングを進めた。さらに、(iii)可溶性鉄の輸送過程をより明確にするため、SrやNd同位体を利用した珪酸塩砕屑粒子の起源解析も行った。Nd同位体マッピングの結果から、オホーツク海北域から南下してきた水塊に、アムール川河川水の流入する河口域の水塊が混合し、混合した水塊がサハリン沿岸を南下しつつ表層から中層へと沈み込む様子が明らかになった。この水塊の挙動に対応して、アムール川から珪酸塩砕屑粒子がオホーツク海を輸送されていることが確認された。また、Feの同位体比からも、アムール川の溶存態鉄がオホーツク海に流入し、サハリンの南まで輸送されていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した平成24年度当初の研究実施計画は順調に進展している。自己点検評価としては、予定していた実施内容は全体としては概ね達成しているものの、遅れている点と当初の計画以上に進展している点の両方を含んでいる。その具体的な内容は次のとおりである。 (やや遅れている点) 平成24年度分の研究実施計画で当初予定していた実施内容のうち、オホーツク海の海洋堆積物および懸濁物の可溶性の粒子態鉄の分析が一部完了していない。その理由は、「懸濁物」試料の鉄の同位体分析において、分離過程における鉄の回収率の低下の問題点が新たに浮上したためである。回収率が低い場合、鉄の安定同位体の分析値に非常に大きな影響があらわれる可能性がある。この低回収率の原因は、平成24年度末時点でほぼ特定できたことから、平成25年度に継続して懸濁物試料の分析を進める予定である。 (当初の計画以上に進んでいる点) 可溶性鉄の輸送過程をより明確にするため、当初予定していなかった、SrおよびNdの同位体を利用した珪酸塩砕屑粒子の起源解析を行った。その成果は「研究実績の概要」に記したとおりである。平成24年度末にその成果を論文としてまとめ、国際誌に投稿している。 平成24年度の「研究実施計画」の進捗状況は以上のとおりである。平成25年度末までにはすべての分析および解析を完了し、当初の研究目的を十分に達成できる見通しがある。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度分の研究実施計画で当初予定していた実施内容のうち、オホーツク海の懸濁物試料に含まれる可溶性の粒子態鉄中の鉄およびネオジムの同位体の分析が未達成である。しかしながら、この遅れの原因となった分析法の問題点は平成24年度末時点ではほぼ特定できていることから、平成25年度(最終年度)に継続して懸濁物試料の分析を進めることに支障はない。この分析に引き続き、オホーツク海南域、およびオホーツク海からの鉄が流入している可能性のある西部北太平洋の懸濁物試料の分析も行う予定である。 平成25年度中に、オホーツク海および西部北太平洋の海域における鉄とネオジムの同位体組成のマッピングを完成させ、鉄の安定同位体のトレーサとしての実用性を確立するとともに、アムール川起源の鉄がオホーツク海を経由し、西部北太平洋まで輸送されているか否かを検証する。 また、平成23年度(1年目)に実施した分析から、堆積物、懸濁物試料からの酢酸抽出成分に含まれる有機態成分と炭酸塩成分の鉄の同位体組成に大きな変動幅があることが明らかとなっている。この酢酸抽出成分が、起源物質の同位体組成を反映するものなのか、または堆積後の続成作用による同位体組成の変化を反映するものなのか、その原因の解明も併せて行う予定である。 また、成果報告のために平成25年度内に論文の執筆に取りかかり、国際誌に投稿する予定である。特にオホーツク海および西部北太平洋の表層堆積物、懸濁物に含まれる可溶性の粒子態鉄中の鉄およびネオジムの同位体組成のマッピングの成果は平成25年度末までに国際誌に投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究実施計画で当初予定していた実施内容のうち、オホーツク海の懸濁物試料に含まれる可溶性の粒子態鉄中の鉄およびネオジムの同位体の分析が年度末時点でまだ達成できておらず、平成24年度から平成25年度への研究費の繰越分はこの未達成の項目を実施するために必要な研究費である。 平成25年度の研究費は、オホーツク海・西部北太平洋の表層堆積物や懸濁物の試料から抽出した鉄マンガン水酸化物成分に含まれる鉄とネオジムの同位体組成のマッピングに必要な実験消耗品などの物品費と、その成果報告のための旅費等に主に使用する予定である。 物品費の内訳は、堆積物および懸濁物の試料の化学前処理のための試薬類(酢酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、塩化ヒドロキシルアミン、メタノールなどの高純度試薬、α-ヒドロキシイソ酪酸)、PFA製器具、PP製器具、ガラス器具、ピペッター、Sr・Nd・Fe分離用樹脂、ICP-MS用のアルゴンガス、元素分析計消耗品(錫カプセル、燃焼管)、表面電離磁場型質量分析計でのSrおよびNdの同位体比測定に必要なレニウムリボン・タンタルリボン、などの実験消耗品である。旅費の内訳は、多重検出器ICP質量分析計でのFe同位体測定のための出張旅費、研究打合せのための旅費、成果報告のための国内学会出席の旅費(日本地球化学会年会など)、である。その他、成果報告のための国際誌投稿論文の英文校閲の経費も予定している。
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