研究課題
大陸から海洋に供給される鉄などの金属元素は沿岸海洋の生態系をコントロールする重要な要因の1つである。本研究では、大陸から海洋に供給される鉄の起源解析の手法開発を目的としている。具体的には、オホーツク海をモデルフィールドとし、堆積物や浮遊性懸濁物に含まれる可溶性の粒子態鉄の起源を探るため、“鉄(Fe)同位体トレーサ”の確立を試みた。鉄の安定同位体の有用性の検証には、水塊トレーサであるネオジム(Nd)の放射壊変起源同位体を利用した。平成23年度(1年目)は、堆積物からの可溶性粒子態鉄の抽出法および化学処理法の検討を中心に進めた。平成24~25年度(2年目~最終年度)は、オホーツク海の粒子態鉄の起源を識別するため、シベリア・アムール川の河川水および懸濁物、オホーツク海北西陸棚域・オホーツク海西部~南部、西部北太平洋の堆積物や浮遊性懸濁物から可溶性鉄を抽出し、この中に含まれるFeおよびNd同位体比のマッピングを進めた。特に最終年度は、オホーツク海南域および外洋(西部北太平洋)の中層水中の懸濁物の分析を中心に行った。Fe同位体比マッピングの結果から、アムール川の溶存態鉄が北西陸棚で粒子態鉄となり、高密度陸棚水によって、オホーツク海の中層水に運び込まれ、さらに中層水を経由してオホーツク海南域、外洋の西部北太平洋まで輸送されている様子が明らかとなった。Nd同位体マッピングの結果は、オホーツク海北域から南下してきた中層水に、北西陸棚域の水塊が混合し、混合した水塊がサハリン東岸を南下し、西部北太平洋まで輸送されていることを示唆している。この水塊の挙動に対応して、アムール川から流入した鉄がオホーツク海南域および西部北太平洋まで輸送されていると考えられる。これらの研究成果一部は、すでに2編の国際誌の論文と公表されているが、現在、さらに1編の投稿論文の執筆を進めている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Geochemical Journal
巻: 48 ページ: 121-131
10.2343/geochemj.2.0292
Progress in Oceanography
巻: (in press)
10.1016/j.pocean.2014.04.015