研究課題/領域番号 |
23510008
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
上野 秀人 愛媛大学, 農学部, 准教授 (90301324)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 アメリカ / 土壌 / 二酸化炭素 / 窒素化合物 / 15N / 13C / FACE |
研究概要 |
本研究は、地球温暖化に伴う土壌中の有機物分解速度の増加、大気炭酸ガス濃度の増加、土壌生物活性の変化、さらに施肥や作物種等が、土壌中の窒素・炭素化合物の化学的特性変化や代謝回転率、炭素・窒素の元素蓄積に及ぼす複雑な影響を解析することを目的としている。具体的には、安定同位体元素(13C,15N)を圃場に10年間施用した非常に貴重な土壌サンプルを用いて、土壌中の各種炭素・窒素化合物を分画し、精密測定や安定同位体による元素動態モデル解析を行うものであり、カリフォルニア大学デービス校と連携しながら研究を国際的に遂行するものである。 平成23 年度は、予備試験としてまず、土壌炭素・窒素化合物の分画、13C、15N 安定同位体分析サンプル調製法の条件検討を行い、十分な精度が得られることが判明し、実験方法の確立に至った。予定以上に研究が進捗したことから、本年度から実際のサンプルを用いて、まずSwiss FACE土壌中の炭素・窒素化合物の分画を行った。 その結果、多くの情報が得られたが、主要成果は次の通りである。(1)二酸化炭素濃度が10年間上昇しても土壌中の炭素含量は有意に変化しなかった。(2)二酸化炭素濃度が高い方が土壌中の炭素代謝(回転率)が高くなった。(3)二酸化炭素は非加水分解性有機化合物画分に優先的に蓄積する傾向が見られた。(4)窒素肥料施用量を増加すると、土壌中への炭素蓄積が減少した。(5)二酸化炭素増加により硝酸、アンモニア、アミノ酸画分が増加した。これらは過去に報告されていない研究成果である。 本研究成果についてカリフォルニア大学デービス校のvan Kessel教授らと相談した結果、Soil Biology and Biochemistryに投稿することになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、測定法の確立のため、予備実験を中心に行う予定であったが、順調に土壌中の窒素化合物の分画方法や15N分析試料作成技術の確立が行えた。そして回収率などを入念にチェックし、十分な精度を保ちながら測定が行えることを確認できたため、Swill FACE土壌を用いた本実験を行うことができた。データの解釈については、カリフォルニア大学デービス校のvan Kessel教授とディスカッションを行い、本研究から本研究領域において十分な価値を持つデータが得られたことを確認した。そしてSoil Biology and Biochemistryに投稿することになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度で得られたデータを精査して論文を執筆すると共に、残された課題である土壌腐植中のフェノール化合物に対する高濃度二酸化炭素や異なる窒素施肥量の影響について集中して研究を行う。さらに日本の作物栽培土壌を研究対象に加えることにより研究を拡充し、本年度の研究成果との対比を試みる。また、土壌中の炭素、窒素の動態について、シミュレーションモデルを作成し、高濃度二酸化炭素が土壌有機態窒素化合物に含まれる炭素と窒素が長期的にどのように変化しうるのかについて解析を行う。カリフォルニア大学デービス校のvan Kessel教授らと研究データについてディスカッションを行う。また国内外の関連学会に出席して、本研究分野の最新情報を入手して、研究の深化を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、Swill FACE土壌を用いた腐植酸中のフェノール物質を抽出した後、カリフォルニア大学アイソトープセンターでGC-IRMSを用いた分析を行う費用を支出する。また日本の作物栽培土壌においても研究を拡充するための費用とする。本年度および次年度研究で得られたデータから土壌中の炭素・窒素動態(代謝回転率など)についてシミュレーションソフトを購入して解析を進める。出張でアメリカ土壌学会に出席し、海外共同研究者であるカリフォルニア大学デービス校のvan Kessel教授らとデータについてディスカッションを行うと共に、最新研究情報について収集を行う。また国内においても日本土壌肥料学会などの関連学会に出席し、土壌中の炭素・窒素動態に関する最新知見を収集する。今年度は、予算不足を避けるために最初の予備試験において、本来なら使い捨てを行う多量の試験管を洗浄して再利用するなどの予算節約を行ったこと、実験を優先して論文作成を行う時間がとれなかったことから論文投稿に関する予算を支出しなかった。その結果、50万円ほど次年度に持ち越すことになった。次年度は論文投稿を行うと共に余裕を持った実験を行うためにこれらの研究費を使用する。
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