本研究は、琵琶湖中心とする湖水中において、生体必須元素である鉄・銅の配位子として作用し、両金属の動態に影響する溶存有機物群の性状を明らかにすることを目的としている。最終年度は中心的な分析法であるpseudopolarographyによる琵琶湖水中における、いわゆる“強い”配位子の検出を試みると共に、国内の湖沼でも水質悪化の著しい手賀沼(千葉県)の試料を比較対象とし、両方の湖水で検出される配位子の違いについて測定結果から推察した。また、近年の研究から金属配位子の一部をチオール類または硫化物が占めている可能性が指摘されていることから、手賀沼試料においては採取後直ちにろ過、銅の添加(これにより硫化物は安定化されると推測される)を行った試料と、24時間後に銅の添加を行った試料について応答の比較を行った。 琵琶湖試料については、表面採取試料ではEDTAと同様の強さを持つ配位子の存在が示唆されたのに対し、1m、15m(水温躍層付近)の試料については、pseudopolarographyの半波電位が-1V以下となり、条件安定度定数の対数値が30を超える非常に高い安定度を持つ配位子の存在が示された。40mの試料ではやや正方向に電位が移行し、配位子の分解が起こっている可能性を示した。 手賀沼採取試料については、採水直後に銅添加した試料では、方法の限界値である-1.4Vでも銅の応答に対して未飽和となり、活性の高い(硫化物の可能性)配位子の存在が示された。一方24時間経過試料は琵琶湖と同程度の安定度をもつ”強い”配位子の存在を示し、普遍的に安定度の高い錯体を形成する配位子が存在している可能性が示された。以上の成果について、日本地球惑星科学連合大会(JpGU2014)における生物地球化学セッションにて発表を行った。
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