目的:近年,CO2などの温室効果ガスの吸収に関して,IPCCは2000年~2005年において,年間22億トンのCO2が海洋で吸収されていると報告した.中でも,干潟などの浅場の寄与が大きく,その重要性が指摘されている.しかし,このことに関してCO2を指標として定量的に評価した例は少ない.本研究では,都市近郊の富栄養な人工塩生湿地である大阪南港野鳥園を対象とし,堆積物表面でのCO2吸排出特性および吸排出速度に関して検討した. 2.方法:大潮の干出時にチャンバー法を用いた調査を行った.明チャンバーでは光合成,有機物分解,呼吸が計測され,CO2吸排出速度がわかる.暗チャンバーでは有機物分解と呼吸のみが計測され,CO2排出速度がわかる.よって両者の差からCO2吸収速度が算出できる. 結果と考察:干出地点のCO2排出速度の増加原因として,地下水位の低下に伴い,堆積物間隙中に空気が供給され,有機物分解が促進されたことが考えられた.また,CO2吸収速度の増加原因は堆積物温度の上昇に伴う生物活性の増加に起因した.一方で冠水地点では吸収・排出速度ともに時間的な変化はなく,若干ながらCO2は吸収されていた.測定日ごとのCO2吸収および排出速度と,堆積物温度との関係を見ると,吸収速度に関してはQ10=1.95,排出速度に関してはQ10=2.25が得られた.また,吸収速度は堆積物温度とChl-a,排出速度は堆積物温度の関数として得られた.これらのことにより,底質調査のみで吸収および排出速度の日変化の予測が可能と考えられた.排出速度の変化に関して,潮汐を模した室内実験を行った.干出時は下げ潮時よりも上げ潮時の方がCO2排出速度は大きいが,冠水時は潮汐によるCO2排出速度の変化がなかった.また,堆積物温度・水位・光量を一定とした場合,干出時のCO2吸収速度は大気中のCO2濃度が律速要因であることが分かった.
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