研究課題/領域番号 |
23510023
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
田中 義幸 独立行政法人海洋研究開発機構, むつ研究所, 研究員 (50396818)
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キーワード | 地球温暖化 / 海洋酸性化 / 海草 / サンゴモ |
研究概要 |
サブテーマ1「定量的な生物群集・環境調査」として、陸奥湾の水深2m,4m,7m,10m地点にて海草のモニタリングを実施した。光環境の良好な4m以浅で海草の炭素安定同位体比(δ13C)が高く、水深の増加に伴い有意に低下した。調査地点にてDICのδ13Cがほぼ一定であったと仮定すると、4m以浅で光合成活性が高かったといえる。また、窒素の安定同位体比には、地点・種間に有意な差は認められなかった。海草は炭素・窒素(CN)比20以上で窒素欠乏の状態にあると指摘されているが、本研究では測定した40個以上の試料全てでこの値を上回り、地域固有種スゲアマモにこの傾向がより強く認められた。 津軽海峡に面するちぢり浜においては、紅藻サンゴモの被度を評価した。節間の長さなど形態的な特徴から、昨年度は困難であった対象種の同定が可能になった。しかしながら、両者が混生している可能性もあるため、今後も引き続き細心の注意を払って取り扱う必要がある。 サブテーマ2「 水温・二酸化炭素濃度を操作した恒温槽実験」として、主にアマモを対象として、温度と二酸化炭素濃度を操作した実験を実施した。一部の海草の試料では、二酸化炭素分圧を700ppm, 1000ppmという高いレベルに上昇させても光合成活性は必ずしも上昇せず、予想とは異なる結果が得られた。また、恒温槽を2台利用して水温を2段階に、二酸化炭素分圧をそれぞれ3段階に同時に操作した実験を実施できる体制を整えつつある。実験水槽の二酸化炭素分圧は、既存のpCO2センサーだけでなく、アルカリ度や全炭酸も測定して算出し、より定量的に評価した。 11月には、目標としていたInternational Seagrass Biology Workshop 10(ブラジルで開催)で発表し、本研究の成果について海外の本研究分野に関する主要研究者たちと積極的な意見交換を行う機会に恵まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に挙げた項目を概ね遂行することができた。 しかしながら、紅藻サンゴモを対象とした操作実験に一部遅れがでている。 また、実験を実施する中で新たに対応すべき課題も浮上してきた。本研究は、「バブリング水槽」にて空気と二酸化炭素を所定の濃度に混合した後、対象生物を入れた「生物水槽」に送水、その水を「バブリング水槽」に回収する閉鎖系を採用している。これまでの測定では「生物水槽」の方が、「バブリング水槽」よりも二酸化炭素濃度が低い傾向にあることが明らかになっている。おそらく対象とする海草など一次生産者の光合成の影響を受けたものと考えられるため、今後は両水槽間の水の循環速度を高めて光合成による二酸化炭素濃度の変化幅を小さく維持できるよう改良するとともに、漏水などを防ぐための緊急排水機構などを整える必要がある。また、栄養塩の添加の影響を受けて、珪藻など対象一次生産者以外の生物が繁茂する可能性も示唆されている。ケイ素の濃度が低い海水を調達し実験に供することなど、対応を検討している。 東日本大震災の影響で質量分析計をはじめとする測定機器がダメージを受けたため、一昨年度に実施することができなかった安定同位体比については、マシンタイムを確保いただき、予定の試料の分析を終了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
サブテーマ1「定量的な生物群集・環境調査」:これまでの調査を踏まえ、対象種ならびに対象地域における定量的な情報を集積する。昨年も指摘したようにIn situからの試料採集時に草体・藻体を一部傷つけてしまうことを回避することは困難である。現状、自らの研究施設において種子や胞子から培養することは困難であるため、引き続き、陸奥湾周辺の実験・研究施設などと連携して、採集による外傷を受けていない草体・藻体の入手経路を検討する。また、現場における炭酸系など環境要因の測定・試料採集を行う。 サブテーマ2「水温・二酸化炭素濃度を操作した恒温槽実験」:これまでの知見を踏まえ、水温・酸性化を、組み合わせて同時に操作した培養実験を実施し定量的なデータを得る。平成25年度は、対象生物についても地域固有種と普遍種とを同時に対象とし、これまでに個別に実施してきた実験を組み合わせた実験に取り組む。テーマ1の項で触れた、種子や胞子から培養した試料の入手が困難であった場合にも、実験条件・期間を調整することで、草体・藻体の損傷による生残率にあたえる影響が小さい範囲を検討し、操作実験を精力的に実施する。 サブテーマ3「予測モデルの開発」:当該海域におけるこれまでの海洋研究開発機構をはじめとする海洋観測の成果や先行研究による各種予測を踏まえて、本研究の結果を解析し、複合的な環境要因の変化に対するサンゴモと海草との応答に関するモデル提示する。 昨年11月のISBW10では、海洋酸性化に対する大型植物の操作実験に精力的に取り組んでいるWyllie-Echeverria Sをはじめとする研究者達と情報交換し、例えば青森県とワシントン州の両方に分布するアマモを対象とした酸性化実験など共同研究の可能性も打診された。今後も、実験手法を中心とした情報交換を続け、今後の研究の発展の足がかりとしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
選定した調査地点において、野外調査、モニタリングを実施し、実験に供する試料を採集する。オーソドックスではあるが、調査対象海域では、あまり実施されていないホールパンチ法による海草の生長量測定を検討する。水温・二酸化炭素濃度を操作した恒温槽実験のために、実験装置を整備・改良する。バブリング水槽と生物水槽間の海水流量の確保にともなう排水機構などの改造、ケイ素の少ない水の調達、採集によってダメージを受けていない草体・藻体の購入を検討する。また操作実験で使用する二酸化炭素ならびにチューブ類などの消耗品を購入する。また今年度も、大気海洋研生元素分野において、採集した試料の炭素・窒素同位体分析比分析を実施する。得られた成果は、日本生態学会など主要な学会で公表する。
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