前年度に引き続き、低温細菌(深海由来)、中温菌である大腸菌(通性嫌気性菌の代表)、枯草菌(絶対好気性菌の代表)、乳酸菌(絶対嫌気性菌の代表)及び酸素発生型光合成細菌Cyanobacteriaについて解析した結果、いずれも生育至適温度より低温条件では酸化損傷塩基(8-oxo-deoxy-guanine)の生成が増大すること、定常期に比べ対数増殖期において著しい酸化損傷塩基の蓄積が見られた。 また、各細菌における酸化損傷塩基の抑制機構について、特に酸化損傷塩基分解酵素遺伝子の探索を行った。既に大腸菌では前述の遺伝子はMutT遺伝子として報告されているが、枯草菌では遺伝子そのものは同定されたが染色体上の同遺伝子破壊株は野生株と同程度の自然突然変異率を示し、サイレント遺伝子であることが判明した。また、乳酸菌の染色体上にはMutT遺伝子が無いことが示唆され、乳酸菌では酸化損傷塩基除去修復に他の遺伝子(mutMとmutY)が主要な役割を担っていることが判明した。さらに,低温細菌と光合成細菌からMutT遺伝子を同定し、酵素学的な解析を行ったところ、8-oxo-dGTPに特異的に作用する酵素であることが判明した。さらに、いずれのMutT酵素も生育温度より低温域では反応速度が著しく低下した。 以上のことから,環境中、特に低温環境中ではMutT酵素が働かないため微生物染色体中に酸化損傷塩基が蓄積するのではないかと推察した。西部熱帯太平洋海域(深海500m~3000m:水温2~4℃)および南西諸島伊是名海穴(深海1200m:水温4℃)から採取した海水試料を用いて微生物群を回収し染色体中の酸化損傷塩基量を測定したところ,表層海水(10~100m:水温28℃)試料中のものと比べ約10倍程度の蓄積量を示した。これらの結果から低温環境である深海は分子進化が起きやすい場であることが示唆された。
|