研究課題/領域番号 |
23510032
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
東條 元昭 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (90254440)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 極地 / 野生植物 / 植物病原菌 |
研究概要 |
野生植物は、一般に植物病原菌が感染しても死滅に至ることはほとんどないが、急激な温度変化や豪雨などの環境ストレスが加わると大量枯死など大きな被害に至る場合がある。近年異常気象が続く極地では、主要植生であるコケやヤナギ類に、植物病原菌が広く感染していることがこれまでに確認されている。この研究の目的は、近年環境変化が著しい極地にどのような植物病原菌が生息し、それらの病原菌の、植物の生存への影響の有無や影響の程度を明らかにすることである。今年度は,極地のコケやヤナギ類などに寄生する糸状菌の同定,酵素産生,凍結耐性などについて調べた。その結果、高緯度北極域に位置するスピッツベルゲン島のカギハイゴケやキョクチヤナギに生息する植物病原菌の一部が同定された。スピッツベルゲン島に生息するこれらの病原菌には、カギハイゴケに感染し茎葉褐変を起こす新種Pythium属菌や、温帯産種と同種に類別されるが遺伝的に明確に異なるキョクチヤナギ感染性の黒紋病菌が含まれることが確認された。また、これらのうちPythium属菌については、実験室内での菌糸凍結耐性能を示すことを明らかにすることができた。また、スピッツベルゲン島のカギハイゴケに感染力をもつTrichoderma polysporumの人工培養物中に、低温下での生存に関与すると考えられる第二次代謝産物が産生されることを明らかにした。一方、極地の野生植物の生存に及ぼす植物病原菌の影響を文献情報の側面から評価するために、極地の植物病害に関するこれまでの情報を総説としてとりまとめた。その中で、極地の植物に雪腐症状を起こす糸状菌の分布と種構成をとりまとめて考察したところ、コケなどの地上部にリング状の白化や褐変などの雪腐症状を起こす糸状菌は、低温環境下での生存に適した生育特性を有しており、そのほとんどが極地の海洋性気候域内に分布していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目的であった、極地の植物病原菌の同定、酵素産生、凍結耐性などについて、一定の成果が得られたため。また、過去の関連情報を整理して審査を伴う総説として報告することによって、研究の意義を客観的に評価することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、まず、極地の植物病原菌の同定と性状解析については、前年と同様の材料について同様の方法でさらに詳細な実験を行う。次に、極地の植物病原菌の野外調査を行う。この調査では、スピッツベルゲン島の日本北極基地に夏期の短期間(約3週間)滞在し、基地周辺のカギハイゴケやキョクチヤナギに発生する病原菌を調査する。調査は次の3つの手順で行う。1)日本基地周辺のカギハイゴケやキョクチヤナギを対象に、植物病原菌の感染率を調べる。カギハイゴケについては、応募者が平成15年度に設置してその後1~2年間隔で定点観測を行ってきた6個の試験区について、分離法による植物病原菌の動態調査を行う。また、キョクチヤナギについては、平成18年度に設置してその後2年間隔で定点観測を行ってきた20個の試験区について、肉眼と顕微鏡観察による植物病原菌の動態調査を行う。分離した植物病原菌株は、植物防疫所の許可を得て日本に持ち帰り、同定と性状調査を行う。2)上述の試験区には、平成22年度年夏に5年間有効の屋外用温度記録計を設置しており、これを回収して各試験区の温度変化をモニタリングする。降水量については日本北極基地および日本北極基地近い場所で観測しているノルウェー極地研究所の観測データを入手する。3)各試験区における植物病原菌の感染率と温度や降水量を取りまとめ、同じ場所での平成15年度から1~2年間隔で得たそれらのデータと総合して相関分析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、前年度に実施した極地の植物病原菌の同定と性状解析に加えて、極地での現地調査を訓練された学生ともに実施するために、調査費(旅費)として1,100,000円を計上する。また、植物病原菌の材料が当初計画よりも増えたことや、同定のための遺伝子解析技術の高度化によって作業量が増えた。そのため、同定作業の実務経験が豊富な非常勤職員1名を平成24年度に雇用することとし、この非常勤職員を中心に、平成24年度内に集中的に作業を実施することが効果的であると判断した。そこで、次年度に使用する予定の研究費(主に非常勤職員人件費)として600,000円を計上し、平成24年度に請求する研究費と合わせて使用する計画を立てた。
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