研究課題
近年異常気象が続く極地で、主要植生であるコケやヤナギ類に植物病原菌が普遍的に感染していることがをこれまでに確認してきた。通常、野生植物では植物病原菌が感染しても壊滅的被害に至ることは少ないが、環境ストレスが加わると大量枯死に至る例が温帯域で近年報告されている。近年環境変化が著しい極地では植物病原菌による野生植物の被害が生じている可能性があるが詳細は明らかでない。この研究の目的は、極地にどのような植物病原菌が生息し、それらが植物の生存に及ぼす影響を明らかにすることである。北極と南極の主要なコケ種であるカギハイゴケから未知種の植物病原性Pythium属菌が分離されることは、これまでの著者らの研究で明らかになっていたが、未記載の状態であった。そこで、平成24年度にこの菌種をPythium polare sp. nov. として新種記載した。本種は北極と南極の両極域に分布が見られた。P. polareは主に褐変を起こしたカギハイゴケの茎や葉から分離されたが,土壌や水中からも検出された。5℃下でカギハイゴケに接種すると接種5週間後までに茎や葉に感染し褐変を起こすことがわかった。培養形態は麦類等の褐色雪腐病菌として知られるP. iwayamaiなどと類似するが,遊走子が形成される際の逸出管が長いこと(av. 34.1 μm)や,雌雄異株性であることなどの特徴によって区別することができた。また,0℃下の培地上で菌糸が安定して伸長する(2.0~2.8 mm/day)ことも明らかになった。リボソームDNAのITS領域の塩基配列に基づく系統解析では,北極と南極の互いに遠く離れた5つの地点から分離されたP. polareの8つの菌株が,互いに99.9 %以上の相同性を示す一方で,P. iwayamai などの麦類褐色雪腐病を起こすPythium属菌と遺伝的に近縁であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
北極と南極の主要なコケ種であるカギハイゴケから未知種の植物病原性Pythium属菌を新種として記載することができたため。
1)極地の野生植物に発生し未同定となっている他の植物病原菌種を、形態的および分子的特性に基づいて同定する。2)スピッツベルゲン島に位置する日本北極基地周辺のカギハイゴケやキョクチヤナギへの植物病原菌の感染率やその年次変動の定点観測データを解析し、発生生態と宿主植物の生存に及ぼす影響を明らかにする。
極地の野生植物に発生する植物病原菌種の、形態的および遺伝的特性に基づく同定に要する諸費用(糸状菌の培養に関わる装置の購入、顕微鏡観察関連消耗品および遺伝子解析外注費)。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Fungal Ecology
巻: 5 ページ: 395–402
10.1016/j.funeco.2012.01.003
Fungal Biology
巻: 116 ページ: 756–768
10.1016/j.funbio.2012.04.005
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