研究概要 |
この研究の目的は、近年環境変化が著しい極地で、植物病原菌が植物の生存にどのような影響を及ぼしているかを明らかにすることと、そのための基礎知見である極地における植物病原菌の種類と分布を明確にすることである。 今年度はまず、ノルウェー領スピッツベルゲン島ニーオルスン日本基地の北側斜面のカギハイゴケ群落に生息するPythium属菌の分離頻度と種構成の変化について、2003, 2004, 2005, 2006, 2008, 2010 および2012年のそれぞれの年の夏期の調査データを解析した。その結果、未知種を含む6種のPythium属菌が種によって異なる密度変化を伴ってこのカギハイゴケ群落に生息し、少なくとも内5種がカギハイゴケに感染性を示すことが確認された。 次に、同島における植物病原菌の種類と分布を既報と独自調査の結果をもとに取りまとめたところ、これまでに同島で報告されている578種の糸状菌の内少なくとも176種が植物寄生菌である可能性が示された。一方でこのような極地の植物病原菌の生態や分布範囲についての情報は極めて少ないことが明らかになった。 上記に加えて、同島のキョクチヤナギに黒紋病を起こすRhytisma属(子嚢菌)の1種が新種であることがわかったので国際専門誌で報告した。また、著者らはスピッツベルゲン島でコケ感染性の糸状菌としてTrichoderma polysporumを既に報告したが (Yamazaki et al. 2011)、本菌株がPythium属菌を抑制する新規の物質を培地上で生産することが明らかになり特許出願を行った。さらに、著者らがこれまでに新種として報告した極地のコケ感染性のPythium polareが (Tojo et al. 2012)、温帯産の近縁種よりも高い凍結耐性能を示すことを報告した。
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