近年環境変化が著しい極地で,植物病原菌が植物の生存にどのような影響を及ぼしているかを明らかにすることと,そのための基礎知見である極地における植物病原菌の種類と分布を明確にすることを目的として実施し,次の3つの成果を得た。 1)植物病原菌の高病原性種が増加している現状の把握:ノルウェー領スピッツベルゲン島ニーオルスン日本基地の北側斜面のカギハイゴケ群落に生息するPythium属菌の分離頻度と種構成の変化について 2012年と2014年を調べ,先に実施した2003年からのデータと合わせて解析した。その結果,Pythium属菌6種は種によってそれぞれ異なる密度変化を伴ってこのカギハイゴケ群落に生息しており,その内の病原性の高い1種が密度を近年増加させ,2種が近年になって急に密度を減少させていることがわかった。 2)極地の植物病原菌の新種記載:北極域の主要植生であるカギハイゴケとキョクチヤナギに病害を起こしている植物病原菌をそれぞれPythium polareおよびRhytisma polareとして新種記載した。このうちP. polareは南北両極の広範な地域に生息し,南北両極の主要植生であるカギハイゴケに褐変などの被害を引き起こしていることを明らかにした。3)極地の植物病原菌が産生する新規抗菌物質の発見:応募者らがスピッツベルゲン島のコケから分離し同定したコケ感染性糸状菌のTrichoderma polysporumが,植物病原性Pythium属菌を抑制する新規の物質を培地上で産生することを明らかにし特許出願した。
|