大気に放出されたタイヤ摩耗粉塵(TD)は、地表面への沈着と再懸濁による浮遊を繰り返す。このようなTDの移動プロセスにおいて、TDマーカーであるジヒドロレジン酸(H2RAs)の濃度や組成は、分解・揮発・溶出等によって変化すると考えられる。今年度は、環境中でTDが水と接触することで起こるレジン酸濃度、組成の変化を定量的に評価するための情報を取得することを狙い、溶出実験を行った。 先ず、レジン酸が溶出するかの検討をするため、マツ葉粉末と路上粉塵(RD)を用いて24時間撹拌の溶出実験を行い、天然レジン酸、人為起源のH2RAsそれぞれについて、水-粒子間分配係数(Kp)を求めた。次にKpと植物組織やRDの一般的な有機炭素含有率(foc)を用いて水-有機炭素間分配係数(Koc)を推定した。推定したKoc値は化合物毎にそれぞれ異なったが、既にTD指標として広く利用されている化合物の24MoBT、NCBAと比べて、同等の分配挙動を示すことが分かった。水との接触時間を極端に短くした実験では、Kp、Koc共に24時間撹拌より高値になるものと、それほど変わらないものがあり、化合物によって傾向が異なった。以上より、植物組織片やTDが環境中に放出された後、雨水等との接触によってレジン酸の濃度、組成が変化することが定量的に明らかになった。また、溶出したレジン酸は土壌浸透すると考えられるので、今後は土壌中の動態についても明らかにして行く必要がある。 また、国内の広範囲の都府県で採取した路上粉塵についてもレジン酸分析を実施した。濃度は様々に異なり、交通量との相関も認められなかったが、分析した全ての都府県試料でタイヤゴムと酷似したH2RAの組成を示すことが確認された。
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