研究概要 |
我々は、環境汚染物質として注目されている有機フッ素化合物 (PFCs) の生態影響について調査してきた。一方、フッ素含有医薬品の代表例としてフルオロキノロン系抗菌剤 (FQs) がある。我々の行った、河川流域の医薬品汚染実態調査ではFQの1つであるLevofloxacin (LVFX)が検出された。抗菌剤による水系汚染は、ヒトへの健康影響や薬剤耐性菌の発生等を引き起こす可能性もある。本研究ではFQsとして、LVFXおよびトスフロキサシン(TFLX)を使用し、フッ素を含有しないナリジクス酸(NA)を対照薬とした。線虫C.elegansを用いた毒性試験(バイオアッセイ)を行ったところ、3薬剤すべてでC.elegansの発生段階、成長段階に影響が認められたが、LVFX, TFLXでより顕著であった。この結果はPFCsで報告されている出生児体重減少や精子奇形等の結果に関連するものと推察された。さらに、FQsに暴露した線虫のt-RNAを抽出し、線虫mRNA配列から6000種を選択して設計したDNAマイクロアレイによる解析を行ったところ、LVFX暴露により、49の遺伝子が有意に発現抑制され、2つの遺伝子が有意に発現誘導された。TFLX暴露でも類似の結果となり、LVFXあるいはTFLX暴露により、共通した8の遺伝子が有意に発現抑制された。発現が抑制されたものには、cmd-1, mlc-3, lbp-5, mup-2, collagen のように成長や生殖機能、代謝等に関わる遺伝子があった。さらに、ストレス関連遺伝子等の誘導も認められた。これらは前記の毒性試験の結果を支持すると考えられた。現在、col-108, col-139などのcollagenやhsp-12.3, hsp-70などのheat shock protein関連遺伝子についてPCRを用いた定量的影響調査を行っている。
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