本研究では、水利権転換の導入によって水資源配分が改善される一方で、工業用水の増加が工業化を推し進め、これによって引き起こされるであろう黄河の水資源に対する影響と、環境汚染・資源消費・社会経済への影響を総合的に検討していくことを目的としていた。 初年度は、水利権転換の事例や政策を調べるとともに、統計書類等からデータを収集・整理した。次年度においては、地域の経済成長と水資源利用との関係を把握すると同時に、今まで実態把握が困難であった黄河流域の地表水と地下水の利用を明らかにした。また、経済発展に伴う用水量の特徴を把握するため、東部、中部、西部の3地域に区分しこれら地域ごとのセクター別の用水量を時系列で把握するとともに、これら地域間・セクター間の比較によって転換可能な水量を分析した。さらに、地域の用水原単位を比較することによって、地域の特性を示すとともに、用水路や圃場における漏水の状況をまとめた。またここでは、農業用水だけではなく、工業用水や生活用水の時系列的な変化を明らかにすることによって、農業で削減した水を水利権転換によって転用させた場合の各セクターへの影響と効果を検討した。さらに、水利権転換に伴う工業増産による影響を水環境指標としてのCOD、天然資源消費としてのエネルギー・鉱物資源などによって評価した。最終年度は、ここまで精査してきた、水利権転換の政策分析、データベース構築、転換可能水量の算定、配分方法の検討、河川の流量と経済・環境の影響評価を統合し、水利権転換を用いた水配分のあり方について検討した。また、実際に黄河の下流域で調査を行い、灌漑地域などにおける水利用の実態と経済開発の状況を把握した。本研究を遂行することで、黄河流域における省資源型・環境調和型社会を目指した適正な水資源配分のあり方が議論可能となった。
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