研究課題/領域番号 |
23510061
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井倉 毅 京都大学, 放射線生物研究センター, 准教授 (70335686)
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キーワード | TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体 / ヒストンH2AX / DNA損傷応答 / ブロモドメイン蛋白質 |
研究概要 |
TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体は、DNA二本鎖切断においてDNA損傷部位に集積し、DNA損傷応答シグナルの活性化を促すことが知られている。また我々はTIP60ヒストンアセチル化酵素複合体が、ヒストンH2AのバリアントであるヒストンH2AXをアセチル化し、損傷領域のクロマチンからヒストンH2AXを放出することを見出している。しかしながらTIP60複合体が、如何なる機構でDNA損傷部位に集積し、H2AXのアセチル化を介してDNA損傷応答シグナルを活性化させる分子メカニズムは明らかにされていない。本課題では、TIP60複合体の構成因子であり、ヒストンのアセチル化に結合するブロモドメイン蛋白質BRDXに着目し、TIP60複合体が、如何にDNA損傷部位に集積するのかを明らかにし、ヒストンH2AXのアセチル化を介した、DNA損傷応答シグナル活性化の分子機構を解明する。我々は、TIP60複合体の構成因子として、ブロモドメイン蛋白質BRDXを同定した。ブロモドメイン蛋白質は、アセチル化リジンに結合することが知られているが、実際に、我々は、BRDXのブロモドメイン蛋白質の組換え蛋白質が、アセチル化ヒストンに結合することをin vitroで確認している。BRDXは、TIP60複合体とDNA損傷の有無に関係なく、結合しており、これらのことからBRDXの損傷部位でのアセチル化ヒストンへの結合が、TIP60の損傷部位での集積に関与することが予想された。これまでにセンサー蛋白質NBS1の下流でTIP60が働くこと、DNA損傷依存的なヒストンH4のアセチル化にH2AXのアセチル化が関与すること、さらにヒストンH2AXの複合体にBRDXが含まれることを明らかにし、TIP60によるH2AXのアセチル化を介したDNA損傷応答シグナルの活性化にBRDXが関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、TIP60アセチル化酵素複合体は、DNA損傷のセンサー蛋白質であるNBS1のDNA損傷部位へのリクルートに関与していることを予想していたが、予想に反してTIP60のアセチル化変異体を発現させた細胞において、NBS1のDNA損傷部位へのリクルートは正常細胞と同様に起こることが明らかになった。しかし、同様の細胞において、DNA損傷部位へのリクルート後のNBS1の維持が抑制されることが示され、これらの結果から、TIP60のアセチル化は、NBS1のDNA損傷初期のリクルートに関与せず、NBS1のDNA損傷部位での維持に関与していることが示された。さらに今年度は、懸案であったクロマチン免疫沈降の系が立ち上がり、TIP60の抗体を用いてTIP60が、I-Sce1によるDNA二本鎖切断の部位に集積することを確認できた。しかしながらBRDXの抗体を用いてのクロマチン免疫沈降の系ではBRDXの集積を確認できることができず、この点は現在BRDXの抗体を新たに作成し、再度解析していく予定である。昨年度の問題点であるBRDXのノックダウンの問題は、ほぼ解決しつつあるが、明確な結論を得るためには、さらにノックダウン効率を上げる必要がある。クロマチン免疫沈降の系を確立するのにやや時間を要したためBRDXのノックダウン細胞におけるTIP60のDNA損傷部位への集積をクロマチン免疫沈降の系で検討することが本年度内で完結できなかったが、TIP60の癌抑制因子としての働きを示唆する実験結果も出ており、全体としてはおおむね実験は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験でBRDXのDNA損傷応答シグナルへの関与を明らかにする実験系(クロマチン免疫沈降、FRAPやmicro-irradiationを用いた解析)などは確立された。問題は、BRDXのノックダウンの効率を上げることであるが、これはノックダウンの手法ではなく、テーレンを用いた細胞内でのノックアウト法で対応していきたい。BRDX のノックアウト細胞を用いてクロマチン免疫沈降を行うことによりBRDXが、TIP60のDNA損傷部位への集積に影響するか否かをより明確に示すことができると思われる。この点に関してはすでにノックアウト細胞の作成を開始している。またTIP60によるH2AXのアセチル化を介したDNA損傷応答シグナルが、癌抑制シグナルとして働くことを示すために、NIH3T3を用いたコロニーフォーメイション解析を予定しているが、すでにTIP60をノックダウンさせるとコロニーが増えることを確認しており、H2AXのアセチル化変異体遺伝子を過剰発現させたNIH3T3細胞、BRDXのノックアウトさせたNIH3T3細胞を作成し、同様の実験を展開する予定である。これらの実験によりTIP60を介したDNA損傷応答シグナルが、がん抑制シグナルとして働くことを示していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、最終年度ということもあり、実験機器の購入の予定はない。BRDXの抗体作成、BRDXノックダウンのためのsiRNA、テーレンノックアウト作成に必要なオリゴ、細胞培養に必要な血清などを消耗品として購入する。その他、本課題の成果を学会発表するための出張費、論文作成のための費用などを計上する。
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