研究課題
本研究はUVAの生物影響を明らかにすることを目的としている。365 nm-LED光を用いて、どのようなDNA傷害が誘導され、それはどのような機構で認識されアポトーシスや変異などの細胞毒性につながるのかを調べるために、モデル生物としてショウジョウバエを用い、野生株、DNA傷害修復欠損株、酸化傷害感受性株に対する365 nm-LED光の毒性や変異原性を、310 nm-UVB光およびX線照射の場合と比較した。24年度はまず、初年度に得られた結果の再現性を確認した。365 nm-LED光では、310 nm-UVB光と比較してATR欠損株の致死感受性、変異原性ともに、除去修復欠損株より有意に増加し、酸化傷害感受性株においても高い変異原性が観察されることが確認できた。これらの結果はX線照射によっても観察されたことからショウジョウバエにおいては、X線照射と365 nm-LED光照射による傷害が類似しており、DNA酸化傷害ではない突然変異につながる酸化傷害が誘起されている可能性が考えられた。そこでDNA二本鎖切断の指標とされるヒストンH2AXのリン酸化の測定を試みた。ヒトヒストンH2AX の抗体を用いて行われる培養細胞の測定方法では、ショウジョウバエ幼虫では検出できなかったが、幼虫からヒストンを抽出して同じ抗体を用いて測定したところ、ヒストンリン酸化が検出可能であった。ヒストンリン酸化は、酸化傷害感受性株において見られ、365 nm-LED照射後30分~1時間の後に起こることが観察された。このリン酸化の増加は野生株では見られず、365 nm-LEDによる酸化傷害が誘因となっている可能性が示唆された。365 nm-LED光の傷害性における化学物質の存在についても検討した。代表的なナノ粒子である二酸化チタン前処理後の幼虫に365 nm-LED光を照射したが、顕著な変化は見られなかった。
3: やや遅れている
365 nm-LED光によって、酸化傷害が体細胞突然変異の要因となっている可能性を支持する結果は得られている。傷害の要因の一つと考えているDNA二本鎖切断の一般的な指標とされているヒストンリン酸化の検出を試み、ショウジョウバエ幼虫においてもヒトリン酸化ヒストン抗体を用いて検出が可能となった。その他のDNA傷害検出法として応用しようとしているコメット分析には着手できていない。すでに保持しているあるいは新しく作成した株による毒性および突然変異の観察は順調に進んでいるが、ATM欠損株の入手が遅れており、ATRとATM欠損の比較実験が進んでいない。
25年度は、24年度に引き続き種々のショウジョウバエ株を紫外線照射したサンプルについて、ヒストンH2AXのリン酸化の検出をおこなう。又、陽性対照として行ったX線照射においてヒストンリン酸化について再現性が得られなかった理由を探るため、365 nm-LED照射においてDNA切断が起きているか、アポトーシス誘導の際に見られるDNA切断など、他の検出方法で確認する。アポトーシスの観察はすでにショウジョウバエで行っており、実施は可能である。また、DNA傷害の検出のためにコメット分析を試みる。そのための機器や器具については準備ができている。本年度中でのATM欠損株による実験は困難と考えるが、最終年度に向けて、実験結果のまとめと見直しを行い、研究計画書に添った実験を遂行できるようにすることを目標とする。
オートクレーブを更新したため、他の備品の購入は計画していない。主として消耗品での使用になる
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