研究課題
Rad18 Chk2二重欠損マウスを作製した。このマウスは、ほぼ正常に誕生し発育した。この二重欠損マウスから胚性繊維芽細胞を樹立した。この細胞の増殖速度がきわめて遅く、細胞老化をおこすことがわかった。複製ストレスとは、DNA複製が突然停止する現象であり、細胞老化を引き起こす原因であると提唱されている。DNAの1分子解析(DNA coming, DNA fiber analysis)により、複製フォークの進行速度を測定した。この結果、Rad18欠損マウス初代細胞では野生型細胞に比べて複製フォークの進行速度が約24%遅くなっていた。これに対してRad18 Chk2二重欠損細胞では、複製フォークの進行速度が野生型細胞と同程度まで回復していたが、1本鎖DNA領域に結合することが知られているRPAタンパクが核内で強く集積していた。また、この細胞では、p53およびp21および老化マーカーであるp16タンパクが強く発現していた。Chk2-/-Rad18-/-細胞では、複製ストレスが増加し、RPAタンパクで覆われた1本鎖DNA領域が露出したため、細胞老化に必要なシグナル誘導がおこったと結論した。複数の遺伝子を欠損することにより細胞老化が誘導される現象を発見したので、これを「合成老化」(synthetic senescence)と名付けた。このため、Rad18の機能を阻害することにより、Chk2などのがん抑制遺伝子の異常による細胞増殖の亢進および発癌を抑制できることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Rad18による損傷トレランスと、Chk2による「チェックポイント」が同時に失われると、複製ストレスが増加し、RPAタンパクで覆われた1本鎖DNA領域が露出されることを介して、DNA損傷シグナルが惹起されて、細胞老化が誘導されることを発見したことは、研究の目的にかなっており、十分に有意義な発見であると思われる。
p53欠損マウスとRad18欠損マウスをかけ合わせて作成した、2重欠損マウスにも着目して、細胞老化の誘導により、発癌抑制がみられるか研究を行う。
各種のマウスの飼育経費に、約40万円を支出する。また組織切片の作成のための技術支援に約30万円を支出する予定である。
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