研究課題/領域番号 |
23510066
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
矢野 憲一 熊本大学, バイオエレクトリクス研究センター, 教授 (70311230)
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キーワード | DNA二重鎖切断 / 非相同末端連結 / Ku / XLF |
研究概要 |
DNA二重鎖切断(DNA double-strand break, 以下DSB)は、遺伝情報を担うDNA鎖の完全な切断であり、細胞にとってきわめて重篤な障害である。非相同末端連結(Non-homologous end-joining, 以下NHEJ)はDSB修復の主要メカニズムとされている。本研究では、NHEJによるDSB修復機構について、NHEJ基本因子KuとXLFのタンパク質間相互作用に着目し解析を進めている。まず、放射線高感受性ヒト遺伝病で発見されたXLFの一アミノ酸置換の生理的意義について解析を行った。既に米国の研究グループから一アミノ酸置換がXLFタンパク質の細胞内局在の異常を引き起こし、これが病態発症につながることを示唆する結果が報告されていたが、私たちはそれが人為的実験条件下におけるものであり、より生理的な条件下では、一アミノ酸置換は、タンパク質の不溶化、ユビキチン化とプロテアソームによる分解を引き起こすことを明らかにした。さらに部位特異的DNA損傷誘導とライブセルイメージングを組み合わせた手法により、一アミノ酸置換を持つXLFタンパク質であっても、DNA損傷部位に集積できることを示した。以上の結果は、一アミノ酸置換によるXLFタンパク質のユビキチン化もしくは分解によるタンパク量の低下が病態発現に関与することを示唆している。次に、イノシトール6リン酸がKuタンパク質に対して結合することでNHEJ経路に作用することから、Kuタンパク質の形成過程について解析を行った。Kuタンパク質はKu70ならびにKu80の二つのサブユニットから成るヘテロ二量体であるが、このKuヘテロ二量体の形成がアセチル化とタンパク質分解によって制御されているという全く新しい知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、放射線高感受性ヒト遺伝病で発見されたXLFの一アミノ酸置換の生理的意義について、これまで信じられてきた細胞内局在の変化よりも、ユビキチン化・不溶化・分解がより重要であることを示す実験的証拠を得た。さらにKuの活性型タンパク質であるヘテロ二量体の形成に、タンパク質のアセチル化を介した新たな制御機構が存在することを示す重要な手がかりを得ることができた。これらは本分野における重要な新知見であるが、いずれも本研究の計画時には予測されておらず、Ku-XLF相互作用に着目した解析は当初の計画よりも複雑なものとなってきている。ヒト遺伝病に見られる一アミノ酸置換をはじめとした各種の変異・欠損を持つXLFを発現するレトロウイルスベクターの作製はほぼ終了している。Kuアセチル化の生理的意義を解明するため、Ku各サブユニットの欠損細胞を入手し、それを相補するための発現プラスミドのシリーズを構築した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって明らかとなったアセチル化を介したKuタンパク質のヘテロ二量体形成の制御の詳細を解明し、さらにKuタンパク質のアセチル化が、イノシトール6リン酸を介したKu-XLF相互作用にどのような影響を与えるかを明らかにする。RNA干渉法によってイノシトール代謝経路とDSB修復の関連を明らかにする。放射線高感受性ヒト遺伝病で発見されたXLFの一アミノ酸置換の生理的意義についての知見も総合して、NHEJ経路を介したDSB修復の新しい分子機構の解明へとつなげる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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